【夢が叶いました】訪日外国人の“聖地巡礼”は日本ならではの新しい観光様式 『SLAM DUNK』『STEINS;GATE』『君の名は。』ゆかりの地の現場
行列をなした外国人観光客が構えたカメラの先にあるのは歴史ある神社仏閣ではなく、踏切や階段──映画やアニメ作品に登場する土地を訪れるロケツーリズムが訪日外国人にとって新たな観光の楽しみ方となっている。 【写真5枚】湘北のユニフォーム姿、江ノ電の踏切前でコミックスを持つ台湾人旅行者男性。他、友人との記念撮影、ラジオ会館前のシュタゲファンの中国人旅行者男女、四谷の須賀神社男坂での女性4人組も
2023年の訪日観光客2507万人のうち、約7.5%が作品舞台めぐりで訪れたとされる(観光庁発表)。 人気バスケ漫画『SLAM DUNK』(作・井上雄彦)の劇場版『THE FIRST SLAM DUNK』が2022年12月に公開されるや、全世界で390億円突破の興行収入を上げ、“巡礼ブーム”が一気に加速した。 神奈川県鎌倉市の鎌倉高校前駅近くの江ノ電の踏切は、『SLAM DUNK』のアニメ版オープニングに登場することで知られている。台湾からやってきたスーさん(22歳)は、友人たちと踏切を背景に記念撮影していた。 「スラムダンクの大ファンです。この場所に来られて、ただただ幸せです! 台湾で買った流川楓のユニフォームを着てきました」 「今の盛り上がりの背景には、ネットフリックスやアニメ配信会社クランチロールといった配信サービスの普及があります。コロナ禍の巣ごもりで映像作品の需要が急増した際に『君の名は。』『鬼滅の刃』などのヒット作を通じ、多くの日本アニメが一気に世界に浸透しました。神社など日本文化を色濃く投影する作品に関心を寄せる外国人も多く、円安の追い風もあり実際に作品の舞台を訪ねてみようという海外のファンが増えているのです」(アニメ文化ジャーナリスト・渡辺由美子氏) 聖地を訪ねてみると、「昼はうなぎで夜はしゃぶしゃぶ」など、豪勢な“日本食巡礼”も併せて楽しむ外国人観光客に数多く出会った。
ラジオ会館に人工衛星が落下して物語が始まるゲーム『STEINS;GATE』は、テレビアニメ、映画でも展開する人気作だ。主人公・岡部と天才少女・紅莉栖が出会ったラジオ会館のモデルとなった東京・秋葉原の秋葉原ラジオ会館前では、建物にカメラを向ける観光客がひっきりなしに通る。中国からやってきたリンさん(23歳)はこの日、日本のVTuberやゲームのグッズを購入した。 「中国では秋葉原で一番有名なビルだと思います。これから『ラブライブ!』の聖地・神田明神にも行きます」 映画『君の名は。』(監督・新海誠)のポスターにも使用された、時空を超えて主人公の瀧と三葉が奇跡的な再会を果たした階段のモデルとされる東京・四谷の須賀神社男坂にも、作中と同じアングルで記念写真を撮ろうと多くの外国人観光客がやってきている。アメリカからのブリトニーさん(24歳)は、映画で見たのと同じ赤い手すりを確かめながら感激を隠せない様子。 「クール! 大大大好きな作品の聖地に母と姉、妹と来ることができて嬉しいです。ずっと願っていた夢が叶いました。美しさと心落ち着く雰囲気に感動しています」 世界随一の“観光資源”が巻き起こしているインバウンド旋風は当分おさまりそうにない。 取材・文/上田千春、小野雅彦 撮影/内海裕之 ※週刊ポスト2024年7月12日号