北欧・フィンランドで感じた「自然に寄り添う、根本的に豊かな暮らし」【造園家・齊藤太一さん旅行記】
造園家の齊藤太一さんが、世界中の「グラウンドスケープ」を求めて今回旅したのは、北欧フィンランドのヘルシンキ。北欧デザインの巨匠アルヴァ・アアルトのスタジオや自邸の他、「石の教会」として有名なテンペリアウキオ教会、18世紀の要塞建築を遺す島として世界遺産に登録されているスオメンリンナ島を尋ねました。 「空間の捉え方が自然的で、人々が根本的な豊かさを失わずに生きている」と魅力を語った齊藤さん。齊藤さんが旅で感じ発見したことは、きっと暮らしを変える視点になるはずです。 【写真集】北欧フィンランドで造園家・齊藤太一さんが感じた「自然に寄り添う暮らし」 フィンランドの首都ヘルシンキは、ほとんど日照時間がない長く厳しい冬と、日の沈むことのない白夜の夏が特徴的。そんな北欧ならではの自然環境に育まれた暮らしのあり方を、肌で感じてきました。 日本では、いちばん日当たりのいい場所に広々としたリビングをもってくるのが一般的ですが、フィンランドデザインの巨匠 アルヴァ・アアルトの建築では、家族が集う空間をあえて狭く、窓も小さくして、間接照明のようなじわっとした光を入れています。
実際、狭いほうが温まりやすいし、人というのは大空間より隅っこのほうが落ち着きます。空間の捉え方や配置が、とても“自然的”なんですよね。暗さや寒さに抗わずに、うまくバランスをとって共存しようとする。こなすべき何かに追われてつくり込んだのではなく、自然や暮らしへの愛情からシンプルに出てきた空間には、包み込まれるような居心地のよさが感じられました。
有名な「石の教会」は、柱が1本もない、大地と一体化した空間としての素晴らしさに圧倒されたのはもちろんですが、この建築が住宅街のど真ん中にあることが何より驚き。この景色が日常って…すごすぎる!
また、ヘルシンキ市民の憩いの場所となっているスオメンリンナ島は、穏やかな海に囲まれ、ワイルドフラワーの花畑や雑草がとてもきれいな所です。800人ほどの住民がいて、人の手によるファームや庭もあるのですが、つくり込んだものは皆無で、周囲の自然の延長線上にある。この豊かな自然こそが、彼らが「ここに住む理由」だから、それ以上をほしがりません。 今の時代は情報があふれすぎて、どこかで見たあれもこれもとフルスペックを求めがち。そんななかでも、北欧の人たちは「根本的な豊かさ」に対する感度を失っていない。家族のための小さな空間、手をかけられる範囲のグリーンetc.…。「自分の時間」を生きるためには、それほど多くのものは必要ないのかもしれません。