スニーカーブーム終焉で売上不調のナイキ、それでも日本でだけ好調な理由とは?「みんなと同じがいい」「でもそれだけじゃイヤ」
パリ五輪でそのロゴマークを見ない日はないが、世界的なスニーカーブームが終焉をむかえ、業界トップのナイキも売り上げを落としている。特に欧米市場でブレーキがかかった格好だ。だが日本や中国では堅調に売り上げを伸ばしているという。企業のマーケティングに詳しい永井竜之介氏に理由を解説してもらった。 発売されるたびにプレ値のコラボモデルを手がける、トラヴィス・スコット氏
「みんなと同じ」を求めるニーズ
世界的に過熱していたスニーカーブームが落ち着きを見せ、多くのスニーカーブランドが苦境に面している。 それは、スニーカー業界のトップに君臨するナイキも同様で、2024年3~5月期の世界での売上高は126億600万ドル(約2兆円)で、前年同期比2%減になっている。 ただ、その内訳を見てみると、北米や欧州エリアで落ち込んでいるのに対して、日本や中国などのアジアエリアではじつは堅調に売上を伸ばし続けている。 ナイキの日本での人気の高さは依然として群を抜いている。日本最大のスニーカー売買アプリ「スニダン(SNKRDUNK)」の2023年ランキング※1では、トップ3はいずれも、ナイキの定番スニーカー「エアジョーダン1」と「エアフォース1」の限定モデルである。 トップ30のうち、ナイキ以外のブランドは2つだけで、じつに28をナイキのスニーカーが独占している。スニダンでは限定モデルの高額売買が行われやすく、限定モデルの販売の多いナイキがランクインしやすい点はあるが、ナイキのスニーカーの人気が今なお飛び抜けて高いことは確かだ。 ナイキが日本で高い人気を集めている秘訣には、消費者が持っている二種類のニーズを気持ちよく満足させるマーケティング戦略の存在がある。 この二種類のニーズとは、「みんなと同じ」を求めるニーズと、「自分らしさ」を求めるニーズだ。
定番が人気を博す日本人の文化的自己観
私たちは誰もが母国の文化の影響を受けながら、自分自身について考えたり、物事の良し悪しを判断する基準を無意識に作っている。これは「文化的自己観」と呼ばれる概念で、ある文化で生きる人々には、考えや価値観、行動における暗黙のルールが刷り込まれていく。 日本の文化的自己観の特徴として、自分自身を周囲の人々と繋がる関係の一部として捉えて、人間関係の中で自分を定義する傾向がある。 その結果、日本の人々は、個人としての「自分らしさ」よりも、周囲の人々との関係の中での自分、社会の中での自分といった「みんなの中での自分の見え方」を重視しやすいという特徴を持っている。 ちなみに、日本とは対照的とされる欧米では、自分自身を周囲との関係から切り離し、独立した存在として捉えて、自分の個性や好み、能力などによって「自分らしさ」を定義し、協調性よりも独自性を重視しやすい傾向にある。 職場の中、学校の中、友人関係の中など、「集団の一員の自分」として物事を判断し、周囲の人から見て「変じゃないように」「悪目立ちしないように」と、みんなが好きと言っているモノを好む傾向が強い。 だから日本では「定番」が人気を集めやすいのだ。定番とは、過去に多くの人が好んで選び、買って、みんなが認めていて、周りから高く評価されやすいものである。 ナイキの「エアフォース1」は、1982年にバスケットボール用のシューズとして誕生し、それ以来40年以上にわたって人気を集め続けている超定番スニーカーだ。 マイケル・ジョーダンのNBAデビューと共に誕生した「エアジョーダン1」の誕生も1985年で、長い歴史を超えて今なお「スニーカーの王様」と呼ばれるド定番である。 こうした定番スニーカーは、「みんなと同じ」を求めるニーズの大きな日本において、飽きられることなく、受け入れられ続けているのだ。
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