マンションとは思えない!大胆リノベーションで高層階の一室が「空中庭園」に。若手建築家による見事な設計術を解説
格子窓の向こう側に広がるみずみずしい植物とそこから漏れる光――。ここが都心のマンション、しかも高層階であることを信じられるでしょうか。建築家の谷口幸平さんは、既存の開口の内側にもうひとつ窓を設けることで、戸建て以上ともいえる自然を感じられる「天空の庭園」を実現しました。 【写真で見る】斬新!どうやって都心の高層マンションに庭が生まれたのか?
マンションならではの新しい自然の営みを空間に表現する
住み手は長い間、緑豊かな郊外の戸建て住宅で暮らしていました。しかし年を重ねるにつれ、郊外での暮らしに不便さを感じるように。 そこで一念発起。利便性や新たな学びや体験を求め、知人と共に都心のマンションに移住することを決意しました。
生き生きとした緑と眺望── 両方を楽しめるプランに
しかし都心での暮らしはこれまでとギャップがありすぎます。 そこでリノベーションを手掛けた建築家の谷口幸平さんは、まず緑豊かな自然環境を、マンションのなかにつくることを考えました。 とはいえ、ここはマンションの高層階であり、庭をつくる土地はありません。 谷口さんはどのように解決したのでしょうか。 「既存の開口部の手前にぐるりと木製の“窓の帯”を沿わせて、隙間を庭にするプランを提案しました。ここに鉢植えの植物を置いて“緑のカーテン”をつくろうと考えたのです。庭は6カ所、約50もの植物を使っています」と谷口さん。
このプランは、柱型によるデッドスペースの有効利用、プライバシーの保護や強い日差しを遮るなど、さまざまな恩恵をもたらしています。 住み手の知人は同じフロアの別の住戸で暮らしています。このフロアには2戸しかなく、エレベーターホールも含め、ワンフロア全体が2人の共有スペースと感じられるように、共用部の仕上げを住戸内に引き込むように2戸をデザインしました。 住み手の住戸で知人が過ごす時間が長いことから、東南側をパブリック、西南側をプライベートエリアに。そのうえで自然を享受できるように各スペースの配置を熟慮しました。
高層階にいながら木漏れ日に包まれて食事やお茶を楽しむ
「起床後、西側の寝室から出ると正面の庭に視線が抜け、そこから庭を散策する感覚で空間を移動できるように東側にキッチンとダイニングを配置しました。朝日と緑のカーテンがつくる木漏れ日の中で朝食を楽しめます。 東南のコーナーは建具で仕切ることができるインナーテラス。造作のベンチで、葉や土のにおいを感じながら過ごすこともできます。 地面から離れた高層階だからこそ、自然を五感で感じられることを大切にしました」と谷口さん。 南西のプライベートエリアにも庭が3カ所設けられ、目的に合わせて庭ごとに葉の形や密度などを微妙に調整しています。住み手や知人、ゲストは、互いの距離感を調整し、思い思いの場所で自然を眺めて感じながら過ごせます。
この緑豊かな暮らしを美しく保つために、谷口さんは設計の初期段階で、日植ガーデンに相談。コストバランスや手入れのしやすさなど検討を重ねました。 高層階のマンションでは庭は望めないという固定観念を覆した谷口さんのプラン。 眺望や利便性に加え、自然の豊かさという新しい価値をマンションに与えました。 自然に癒やされ、都市から刺激を受ける、住み手と知人の新しい日常がここから始まります。 (ML258号掲載)