敵対国の記者が「自由の国」アメリカで取材するとき 【ワシントン報告㉑外国人の取材活動】
アメリカの首都ワシントンには世界中から記者が集まる。関係者によれば100カ国を超す計800人以上が記者登録している。アメリカ憲法は言論の自由をうたい、取材の制約は少ない。だが、それは友好国に限られる。ロシアなど敵対国の記者の取材環境は厳しく、情報源の構築は至難の業だ。(共同通信ワシントン支局長 堀越豊裕) 【写真】性犯罪事件の裁判、なぜか次々と満員に 「この人たちはどこから来たのか?」 並んでいた人に聞いても、はぐらかされるばかり。男性を追いかけると、あるビルへと姿を消した… 違和感から重ねた取材粘り強く不祥事を明らかにした2か月半
▽ロシア人記者とは話さない アメリカとロシアの関係はロシアが2014年、ウクライナのクリミア半島を強制的に併合した後、2022年のウクライナ侵攻で決定的に悪化した。アメリカに住むロシア人の元記者は「オンレコ(公表前提)で取材を受けてくれる米当局者はほぼいなくなっている」と打ち明けた。 元記者によれば独自の情報源構築はほぼ不可能だ。その理由として、ロシア人とみれば相手が話してくれない点に加え、ロシア政府の意向を踏まえた付き合いをせねばならず、それでは記者として意味がないと説明した。 ▽中国人記者にも厳しく 一方、アメリカ側の政府関係者が取材に応じるからには、自国政府や自分の考えを相手国側に伝えたいという思いなど何らかの利益がなければならない。アメリカとロシアのように関係が悪化してしまうと、記者との接触はスパイ行為の疑いすらかけられかねない。慎重になるのは当然だ。 覇権争いや台湾問題で米中関係は緊張しているが、中国メディアの取材環境はそこまでではない。それでも中国の事情に詳しい関係者は「報道用の査証(ビザ)発給まですごく時間がかかるようになった」ともらした。以前は日本人記者と同様、数日程度で出たこともあったという。議会の共和党関係者は特に中国に厳しい立場を取っており、取材は難しくなっているとみられる。 ▽取材と諜報の線引きは微妙
ワシントンの取材対象はホワイトハウスや大統領選など多岐にわたる。外国メディアがワシントンで取材する主な目的は、米国の動きを自分の国に伝える点にある。アメリカのメディアの情報を引き写しているだけでは記事として不十分で、独自の情報源が欠かせない。 だが取材活動と諜報活動の線引きは時に微妙だ。アメリカの国務省は今月、ロシアの情報機関の手足だとして国営メディアRTの関連組織などを制裁対象に指定したと発表した。司法省も、RTの社員2人がアメリカ政府への登録なく、ロシア側に有利な情報をアメリカ国内で拡散したとして、外国代理人登録法違反の罪などで起訴されたと明らかにした。 起訴状やアメリカのメディアによると、2人は動画を配信するテネシー州の会社テネット・メディアの創設者に働きかけ、極右の評論家らを使って世論操作を図っていた。例えば2024年3月にモスクワ郊外のコンサートホールで起きた銃乱射事件について、過激派組織「イスラム国」(IS)系勢力の犯行とみられていたのに、ウクライナの犯行を示す主張を展開した。