部活動の強制加入、高校野球の強制応援が続く日本の教育現場…岩手県の中学校は、2020年度で6割の学校が「強制加入」
(3) 部費を生徒会費として全員分徴収しているから
意外と知られていないのが、部活動に関するお金のやり取りだ。部活動をやる場合には、もちろんその部活に関連した費用はかかるが、「学校諸費」として、生徒全員から徴収されている。その名目は必ずしも「部活動後援会費」のような「部活動」に限定されず、生徒会費として徴収されたお金が部活動に回っている場合もある。 学校側からすれば、全員からお金を徴収しているため、全員に部活動に入ってもらわないと困る、という理屈である。
(4) 中体連等への加盟費を全校生徒の人数分、支払っているから
こちらも費用に関係しているが、中体連等、大会を運営している組織にお金を払っているために、全員部活動に参加すべきであるとなりやすい。 逆に言うと、中体連としては、大会等の維持運営のために全員からお金を徴収しなければ成り立たない、という論理もある。
(5) 内申&入試に影響するから
部活に入るべきという圧力は、必ずしも学校(教員)からだけではない。高校入試に影響するため、保護者が入るのを勧めるというのもある。実際、地域によっては、部活動の成績が内申点に加点されており、部長をやっていれば、入試に有利に働きやすいというのもある(噂も含め)。
(6) 同調圧力
学校入学の最初の1学期だけ加入という学校も珍しくない。その後は、任意で辞めて良いというものである。しかし実際は、中学生が学校の先生に「辞めたい」というのはハードルが高く、学校によっては、顧問だけでなく、3人の教員のサインが必要としているケースもある。これでは暗に「辞めるな」と言っているようなものである。 ある国立の中学校では、こうした事態を防ぐために、毎年入部届を出す仕組みにしており、辞めるハードルを下げる工夫を行っている。
(7) 生徒を学校に囲う論理
これまで述べてきた内容と大きく関連するが、放課後まで生徒を管理したい、管理してもらいたい、という双方のニーズが、学校、保護者、地域住民に根強く残っている。 その根底にあるのは、放課後自由にしたら、何をするかわからない、という生徒への信頼のなさ(過度な子ども扱い)や、生徒が放課後に何か問題を起こしたら学校の責任にする保護者や地域住民の意識、社会全体の問題である。 「私の学校は全員加入である。外部のスポーツクラブに通っている生徒も、何かしらの部活動に所属しなければならない。なぜ、全員加入なのかと職員会議で質問したところ、『放課後の活動を把握できない』『放課後に問題が起こる可能性がある』『家にいる時間が増えれば、ゲーム・スマホ依存につながる』などと管理職から言われた。 『放課後の活動を把握できない』『放課後に問題が起こる可能性がある』…… この2つについては、生徒を管理するという学校の、教師の姿勢が丸出しだと感じた。なぜ、把握しなければいけないのか。放課後は、家庭に子どもをかえすべきである。自由な時間がなさすぎる。今の子どもたちは、窮屈な生活だと感じる。 『家にいる時間が増えれば、ゲーム・スマホ依存につながる』…… 家庭の指導力の問題だ。家で1人になると、好き勝手やらないか心配だから学校で面倒みなければというボランティア精神なのだろうが、学校は託児所ではない。我々教員にも、家族がいるはずだ。他人の子どもの面倒を見て、どうして自分の子どもを、家族を犠牲にしなければならないのだろうか」(学校現場の声を見える化するWEBアンケートサイト「フキダシ」) このように、管理教育の象徴となっている部活動の強制加入だが、学生はどう思っているのだろうか。 日本若者協議会が2022年3月に、学生(中学生・高校生、近年卒業の大学生)向けにアンケートを実施したところ、「どちらかと言えば賛成」も含め、96%が部活動の強制加入の撤廃に賛成と回答し、その理由としては、「他にやりたいことがあるから」「学業への支障」「教員の労働環境が過酷だから」「ストレス、休日まで拘束してほしくない」「子どもの自由を尊重すべき」といった点が挙げられた。いくつか回答内容を抜粋しよう。 「やりたい生徒とやりたくない生徒が同じ熱量で部活に打ち込めるとは思わないし、生徒間のトラブルの原因になるから。また、部活の時間が先生の勤務時間を圧迫するのはおかしいと思うため」 部活を真剣にやりたい生徒にとっても、本当は他のことをやりたい生徒にとっても、デメリットの大きい部活動の強制加入。制度上、任意加入となっているからという理由だけでなく、生徒の自主性、主体性を尊重するのであれば、当然任意加入であるべきだ。 そのためには、生徒会活動と同様に、部活動も、教育活動の一環ではなく、健康や生涯スポーツ、趣味を見つけるといった、人生を豊かにするための学校外活動へと見直していく必要があるのだろう。 これに対し、日本若者協議会では、部活動の任意加入の徹底や、入試における部活動欄の廃止などを求めて、スポーツ庁に要望書を提出。 その後、2022年6月、スポーツ庁の「運動部活動の地域移行に関する検討会議」の提言において、「部活動強制加入は不適当」であること、「退部が高校入試で不利にならないように」といった内容が記載された。 また部活動の強制参加は、自分の部活だけにとどまらない。中には、野球部の応援に強制参加させる学校も存在する。実際そうした声が日本若者協議会のもとに届いており、過去には、吹奏楽部がコンテストの大会出場を諦め、甲子園の応援を優先した事例もある。 ただでさえ、炎天下で熱中症のリスクの高い、野球の試合観戦。こちらも同様に見直していく必要がある。 写真/shutterstock
【関連記事】
- 人口のおよそ14%「境界知能」は知的障害と何が違うのか…複雑な内容の文書を扱う活動などでは強いストレスを感じることも
- 〈「ギフテッド」と呼ばれる人たち〉3歳で機械式時計の仕組みを熟読、小4で英検準1級…IQ154の少年が学校に行けなくなった理由とは
- 30年後、野球部員は1校3.5人に…部活動を維持できないケース多発! それでも改革を拒む教育ムラの人々は「部活は大事な学校教育」と言う
- 下着は白かベージュ…外国出身児童が不登校になるほど強要した「ブラック校則」の実態と教員の言い分「地域からクレームが毎週くる」
- 「私たちはすごく非現実的な、夢の中にいるような時代を生きている」…見なかったW杯、安倍氏の国葬、岸田政権の今後、小室圭さん…芥川賞候補作家・鈴木涼美が噛み砕く2022-2023年の世相