若者はSNSを見過ぎて“史上最悪”のメンタル…“自分の地位を勝手に下げている人”に効く一冊を養老孟司が読む(レビュー)
ベストセラー『スマホ脳』で著者、アンデシュ・ハンセン氏はスマホに溺れることの危険性を説き、大きな反響と強い共感を呼んだ。そのハンセン氏の新刊『メンタル脳』(マッツ・ヴェンブラード共著、久山葉子訳)は、現代人、とりわけ若い人のメンタル問題に焦点をあてた一冊である。 【写真】実はゲーマー!86歳になった「養老孟司」さんを見る ユニセフは世界の10~19歳の若者の7人に1人以上が心の病気の診断を受けていると報告し、米CDC(疾病予防管理センター)は10代のメンタルヘルス問題を「国家的危機」と警告しているという。 人類史上最悪とも言えるメンタル状態から脱するためにはどうすればいいか。同書は脳科学の見地から、その問いにこたえる「心のトリセツ」とも言うべき内容となっている。 この話題の書を、やはり若者のメンタルに強い関心を持つ養老孟司さんはどう読んだか。以下、養老さんのレビューである。 *** 若者を怒らせる言葉の一つに「常識」がある。何気なく「常識」と口にして、「常識ってなんですか」と強く反発されたことがある。その若者はたぶん親に「常識がない」と言われて、傷ついたことがあったのかもしれない。 著者のハンセンは常識家である。私のいう常識家とは、世間で通用している暗黙の規則をよく心得ていることではない。さまざまな出来事に目を配って、ものごとをどう考えたらいいのか、よくわかっているという意味である。他人の考えることはほぼわかっているが、考えていないこともなにか知っている。そういう人である。 この本でハンセンは脳にかこつけて常識を語っている。たとえば気が滅入ったら運動しなさいという。脳がどうこうということを知らなくても、体を動かすことは、健康のために必要である。それなら三年寝太郎は病気になるに違いない。でも、昔の人は万事に体を動かすしかなかったから、身体労働がきつすぎたので、ああいう昔話があるのだと思う。隣の町に行くのにも、何キロか歩かなければならない。そういう昔ならともかく、今では公共交通機関や自家用車があるから歩かなくて当然だが、以前は歩くのが当然だった。