若者はSNSを見過ぎて“史上最悪”のメンタル…“自分の地位を勝手に下げている人”に効く一冊を養老孟司が読む(レビュー)
ハンセンは現代の若者のメンタル(心と言ってもいい)が不調らしいという事実を問題にする。ヒトという動物は、150人程度の集団で狩猟採集をしていたというところから話が始まる。そういう時期が長かったので、脳は今でもそういう生活に適応したままなのだ、という。生活は現代だが、脳は石器時代のままなのである。だから不安になったりパニック発作が起きたりする。物陰から突然ライオンが飛びかかってきたりすることは、今ではもうないのに、脳がそれを認めてないから、じつは必要もないのに不安に陥ったりする。 小集団のなかでは、集団内の順位が生き延びるために重要である。ところがSNSを見ていると、自分よりきちんとして見える人が、整然とした部屋に住んでいる。それを見ている若者は、自分の地位を勝手に下げてしまう。他人と自分を比べるのはやめなさい、スマホは日に1時間にしなさいという忠告がそこから出てくる。 さまざまな心理的な不都合に対して、脳という視点を持ち込むことで、それはこういうことなんですよ、と著者は丁寧に説明する。アンタがバカだから、とか、性格がヘンだからだ、などとはいわない。そうなるのも脳というものをよく知れば無理もないことなんですよ、と言ってくれる親切なオジサンが著者のハンセンである。 [レビュアー]養老孟司(解剖学者) 養老孟司(ようろう・たけし)1937(昭和12)年、鎌倉生れ。解剖学者。東京大学医学部卒。東京大学名誉教授。1989(平成元)年『からだの見方』でサントリー学芸賞受賞。著書に『唯脳論』『バカの壁』『手入れという思想』『遺言。』『ヒトの壁』など多数。池田清彦との共著に『ほんとうの環境問題』『正義で地球は救えない』など。 協力:新潮社 Book Bang編集部 Book Bang編集部 新潮社
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