【解説】紅白初出場のこっちのけんととは?「はいよろこんで」歌詞考察や「死ぬな!」聴きどころについて
2024年、一気にブレイクを果たしたマルチアーティスト・こっちのけんと。プロフィールや音楽的魅力、ヒット曲「はいよろこんで」の歌詞考察、『THE FIRST TAKE』でも披露された「死ぬな!」の聴きどころなど、こっちのけんとの全貌を詳細に解説していく。 写真:いかに緑が好きなのかがわかるアーティスト写真&ワンマンライブ写真も! ■キャッチコピーは「緑のマルチアーチスト」 ・生年月日:1996年6月13日 ・出身地:大阪府箕面市 ・血液型:O型 ・身長:163cm ・好きな色:緑 ・初めて買ったCD:Goosehouse『Beautiful Life』 ・デビュー:2022年8月31日「Tiny」を配信リリース ・レーベル:blowout Inc. ◎“こっちのけんと”とは?名前の由来 楽曲制作のみならず、映像制作、デザインなども手がけるマルチアーティスト。好きな色が緑なことから、自身のキャッチコピーとして「緑のマルチアーチスト」を掲げている。1996年6月13日に生まれ、大阪府箕面市で生まれ育ち。“こっちのけんと”の由来は、会社員としての自分を“あっちのけんと”、アーティスト活動を行う自分を“こっちのけんと”と区別していたことから定着した。 ◎音楽を始めたきっかけ 中学の文化祭で、クラスで演劇をすることになった際、作詞作曲のできるクラスメイトがエンドロールのための楽曲を担当。その際、歌唱者として指名されたのがこっちのけんとだった。まわりからの反応も良く、このことをきっかけに「自分も歌っていいんだ」と思えたというこっちのけんとは、音楽にのめり込むようになる。 ◎音楽の源流は“アカペラ” 元々はリズムに乗って踊れる洋楽を好んで聴いていたが、様々な感情を表現する言葉(歌詞)に注目するようになってからはJ-POPにも興味を持つようになり、好んで聴くようになったという。ディカペラ(DCappella)、ペンタトニックス(Pentatonix)といったアカペラグループをよく聴くアーティストとして挙げるように、こっちのけんとにとってアカペラは音楽の源流としてあるようだ。大学進学のため上京後、アカペラサークルに入ったこっちのけんとは複数のグループに参加。そのなかでも、ディズニーソングを主に歌う男女4声グループ・ケミカルテットとしてアカペラの全国大会『A cappella Spirits』で2年連続優勝を果たす。その後、2019年7月9日にこっちのけんと個人YouTubeチャンネルを開設。歌唱力を活かして“歌ってみた”動画や口だけで曲を演奏する“ひとりアカペラ”などを中心に動画を公開していく。 ◎バックコーラスとして大舞台にも参加 2019年12月31日、『第70回NHK紅白歌合戦』に出場したRADWINPSが歌う「天気の子 紅白スペシャル」内の「グランドエスケープ feat.三浦透子」にてバックコーラスを担う合唱メンバーのひとりとして参加。また、2021年10月27日に開催された『新ディズニープラス セレブレーションナイト』では、清水美依紗のバックコーラスを担当するなど、活動の幅を拡大していった。 ◎2022年、待望のオリジナル楽曲をリリース 2022年8月31日に初の配信シングル「Tiny」をリリース。同年12月10日に発表した「死ぬな!」がTikTokを中心に話題に。さらに2024年5月27日リリースの「はいよろこんで」は各バイラルチャートを席巻する大ヒットとなり、瞬く間にブレイクを果たした。2024年11月にはアーティストの一発撮りを鮮明に切り取るYouTubeチャンネル『THE FIRST TAKE』に初登場し、「はいよろこんで」を披露。その後、同チャンネル5周年を記念して“生配信で一発撮り”というあらたな試み『REAL TIME THE FIRST TAKE』にも登場し、「死ぬな!」「もういいよ」をパフォーマンスしている。2024年12月13日には、東京・立川TACHIKAWA STAGE GARDENにてキャリア最大規模のワンマンライブ『よいとこせ』を開催。その後も『第66回輝く!日本レコード大賞』新人賞を受賞に加え、『第75回NHK紅白歌合戦』で紅白初出場と躍進が続いている。 ----- ■“ギリギリダンス”のバズ 「はいよろこんで」 ・発売日:2024年5月27日 ・歌唱:こっちのけんと ・作詞:こっちのけんと ・作曲:こっちのけんと、GRP ・編曲:GRP ・Mixing Engineer:安宅秀紀 ・Recording Engineer:古澤みどり ・MV:かねひさ和哉 こっちのけんとの名を世に知らしめ、2024年の音楽シーンにおける一大トピックとなった「はいよろこんで」。この曲がバズった最大の理由は、一聴した瞬間に記憶に刻まれるキャッチ―さ、リピートするたびに発見がある奥深さと中毒性だろう。 トラックの軸になっているのは4つ打ちのビート。印象的なピアノのフレーズとボーカルがかけ合ように始まり、軽快なリズムととともにリスナーを一気に引き込む。この曲を特徴づけるモールス信号を取り入れながら楽曲は進行し、サビのメロディは“ギリギリダンス”をリフレインするサビのパートへと移行。 曲調としてはあくまでも明るくてポップなのだが、それだけではない切なさ、可笑しさ、不思議さが絶妙に混じっていることも、「はいよろこんで」のフックに繋がっていると思う。ノリの良さと際立った個性のバランスも絶妙だ。 左右に手を払うように動く“ギリギリダンス”のユーモラスな振付も「はいよろこんで」がバズった大きな要因のひとつだろう。WEST.や辻希美&杉浦太陽夫妻のほか、Da-iCE花村想太、RIIZE、Aぇ! group、『2024 FNS歌謡祭』で共演したハローキティとシナモロール、ポムポムプリン、ポチャッコ、クロミ、マイメロディといったサンリオの仲間たちとのコラボ動画でも人気を高めている。 このようにダンス動画で興味を持ち、楽曲をリピートするうちに、その奥深いメッセージ性に気づき沼にハマる…というパターンでも「はいよろこんで」を支持するファンを多く獲得したのではないだろうか。2024年11月にはストリーミング累計再生数が1億回と突破。YouTubeでのMV再生数も1億4000万回を越えるなど、数字的にも2024年を代表するヒット曲のひとつだと言える。 ----- ■「はいよろこんで」歌詞の意味は? キャッチ―なサウンドとサビ、個性的で楽しい振付など、ポップスとしての親しみやすさを備えた「はいよろこんで」。同曲がここまでシェアされ、多くのリスナーを惹きつけ続けている最大の理由は、やはり歌詞だ。 他の楽曲と同様、「はいよろこんで」も彼自身の実体験が反映されている。いくつかのインタビューなどでも語っているように、こっちのけんとは双極性障害と診断された経験を持っている。いわゆる躁状態のときはテンションが高く、鬱状態になるととことん落ち込んでしまう。その高低差を認識しながら生活するために、そのときの状態をSOSとしてまわりの人たちにも伝えておきたい。それが「はいよろこんで」制作のはじまりだったという。 “『はい喜んで』/『あなた方のため』”という考え方、つまり利他的なスタンスはたしかに尊い。しかし、それが行き過ぎてしまうと、どうしても疲れてしまうし、いずれは自分自身を追い詰めてしまうことに繋がる。そうなる前、できれば“ちょっと調子悪いかも”というタイミングで友達や家族や同僚に“きつい”“助けて”というサインを出してほしい…そう、「はいよろこんで」の根底にあるのはそういう切実なメッセージなのだ。 特に印象的なのは“怒り抱いても/優しさが勝つあなたの/欠けたとこが希望”というライン。優しいがゆえに他人に当たることもできず、負の感情を抱えてしまいがちなすべての人に寄り添い、“そのままでいい”という効果的なエールを送るこのフレーズは、「はいよろこんで」の核心のひとつではないだろうか。 ちなみに“ギリギリダンス”という印象的なサビの歌詞は、当初“Get it done”が充てられていたとか。やり遂げろ! という鼓舞的なフレーズを“ギリギリダンス”というかわいくてキャッチ―な言葉に結びつけられるセンスもまた、こっちのけんとの才能だろう。 ----- ■『THE FIRST TAKE』でも披露した「死ぬな!」 2022年12月にリリースされ、こっちのけんとの最初のヒット曲「死ぬな!」。同曲も「はいよろこんで」と同じく、彼自身の生々しい経験が強く反映されている。 公式YouTubeにアップされている「死ぬな!」MVの概要欄には、彼自身のこんな言葉記されている。 「僕は”良くない事”だと考えているのですが、 『死にたい』と口にする人が多いと感じます。冗談でも言ってはいけない事だとも思います。それでも死にたいと考えてしまう人へ強引に『死ぬな!』と伝えたくて、この曲を作りました」 双極性障害の当事者であり、以前は希死念慮を抱えたこともあったと語る経験から、「死ぬな!」の“死ぬな!死ぬな!死ぬな!死ぬな!/願い事3つ数えろ”という歌詞は、これほどまでに強い説得力と吸引力を備えているのだと思う。きわめてシリアスなテーマを正面から扱いながら、聴感上はあくまでも軽やか。このバランス感覚も、彼のクリエイターとしての大きな資質だ。 『REAL TIME THE FIRST TAKE』で披露されたことで、「死ぬな!」の魅力はさらに広い層に浸透。YouTubeのコメントでも、「死を考えてる時に『願いごと…3つ?』って、立ち止まるしかないよね。リズムと共に、潜在意識下に刻まれる意外性のあるメッセージ。この人すごいな」「うつ病歴人生半分以上ですが、少しでも現世で遊べるように踏みとどまるための曲です。ありがとうございます」など、メンタルに不調を抱えた人たちからの感謝のコメントが綴られている。 ----- ■SNSでバズを生む、その魅力とは? 「死ぬな!」「はいよろこんで」のヒットにより、音楽シーンのど真ん中に躍り出たこっちのけんと。SNSでバズを生む彼のクリエイティビティを紐解いてみたい。 ◎生身の経験とリンクした楽曲のテーマ性 まずは、生身の経験とリンクした楽曲のテーマ性。精神的な不調、自分自身の出自やキャリアに対するコンプレックスを含め、楽曲を通し、自らの体験をさらけ出すことができるのは、間違いなくこっちのけんとの武器だ。彼の楽曲が多くのリスナーの心に刺さり、何度もリピートしたくなるのは、歌詞に刻まれたリアリティによるところが大きい。 ◎楽曲の作りの巧みさ さらに、楽曲の作りの巧みさも彼の特長。もちろん楽曲によってテイストは異なるが、共通しているのは、懐かしさと新しさの絶妙なブレンド具合。ヒップホップの最新の潮流をしっかりと捉えながら、いなたさや親しみやすいサウンドやメロディを取り入れることにおって、そのジャンルに詳しくないリスナー、上の世代の音楽ファンを含め、幅広い層に訴求できるというわけだ。一度聴けば耳から離れない(=口ずさみたくなる)サビのフレーズ、真似しやすい振付など、リスナーがアクションを起こしたくなる仕かけも絶妙だ。 ◎高い歌唱力 もうひとつ強調しておきたいのは、歌の上手さ。アカペラサークルでの経験に裏打ちさられた正確なピッチ、歌詞の内容やテンションを際立たせる表現力、すべての歌詞をわかりやすく伝える滑舌の良さなど、こっちのけんとはボーカリストとしても高い資質を備えている。 ◎人柄がにじみ出るトーク ライブやインタビューでのあっからかんとしたトークも魅力的。2024年12月に東京・立川TACHIKAWA STAGE GARDENで行われたワンマンライブ『よいとこせ』では、紅白が決まったことに対して「本当に人生で最後のチャンスをいただきまして。ノリノリの曲で、自分の人生をさらけ出そうと作りました」と涙ながらにコメント。こういう正直さ、素直さ、率直さもファンを魅了するのだろう。 ----- ■現在発表されているオリジナル曲は? 「Tiny」 2022年8月30日に発表された、こっちのけんと1stシングル。初めて世に放った楽曲は、兄への想い、彼から受けた影響をストレートに描いたミディアムチューンだ。服のおさがりをもらうように様々なものを受け取り、それを自分らしく解釈しながら、オリジナルの人生を歩んでいきたい。自らの運命を受け入れ、アイデンティティを掴もうとする姿に胸を打たれる。心地よいグルーヴ感をたたえたボーカルからも、アーティストとしての資質の高さが伝わる。 「ビバ・イナイイナイバァ」 2023年4月16日リリースの3rdシングル。前作シングル「死ぬな!」がバイラルヒットを記録した後に届けられた「ビバ・イナイイナイバァ」は、人を笑顔にする“いないいないばぁ”って、大人にも必要だよね? という思いから制作された一曲だ。軽快なサウンド、オールディーズ風のメロディ、“あとちょびっと力を抜いたら金メダルさ”という歌詞が、頑張り過ぎていた心と体を解きほぐし、リスナーの口角をしっかりと上げてくれる。 「どんぐりGAME」 2023年6月13日リリースの4thシングル。煌びやかなエレクトロサウンドとノリノリのビート、“とっとーいんじゃほい!”というリフレインが中毒性を生むダンサブルなナンバー。思わず身体を動かしたくなるトラックとともに、人と比べて諦めるのはもったいないよという真摯なメッセージが浸透していく。銭湯を舞台にしたMVには、TRFのDJ KOO、アインシュタイン稲田直樹が出演。キャッチ―でかわいい振付も含めて、こっちのけんとのエンターテインメント性が際立つ。 「いろは」 2023年12月9日リリースの5thシングル。浮遊感に溢れたシンセ、心地よい4つ打ちのビートを軸にしたアレンジ、そして、抑制の効いた美しい旋律が印象的なメロウ系ダンストラック。ファルセットを交えながら滑らかなラインを描くボーカル、日本語の響きを活かしたフロウなど、クリエイターとしてのセンスが反映された質の高い楽曲だ。歌詞のテーマはいろは=初心。忙しくしているうちにどこかに置いてきてしまった“愛すべき自分”を取り戻すきっかけにしてほしい。 「もういいよ」 2024年10月14日リリースの7thシングル。「はいよろこんで」の大ヒットによる環境の変化、リスナーからの様々な意見、“こっちのけんと”と“あっちのけんと”の違いなどに対して、“もういいよ”と言い放つ最新シングル。決して自暴自棄になっているわけでも起こっているわけでもなく、あくまでもポジティブに“もういいよ”と歌える強さも彼の魅力だろう。「死ぬな!」「はいよろこんで」を手がけたGRPのスピード感に溢れたトラック、勢いのあるボーカルゼーションも気持ちいい。 ----- ■こっちのけんと最新情報をチェック 国内最大の年越しフェス『COUNTDOWN JAPAN』への出演、『第66回 輝く!日本レコード大賞』新人賞の受賞、『第75回NHK紅白歌合戦』で紅白初出場と、2024年末も大活躍のこっちのけんと。 2025年は彼にとって、さらなる飛躍の年になるはずだ。 TEXT BY 森朋之
THE FIRST TIMES編集部