愛犬10年物語(4)「男1匹犬2匹」犬を伴侶にして生きる
日本の“四極”踏破「この子たちと生きた証明欲しかった」
それからは、文字通り犬どっぷりの生活だ。まず、神威のために手狭な実家を出て、埼玉県内の賃貸住宅へ。2頭目の『風蓮』(メス・7歳)を迎えたのは神威が6歳の時だ。イタズラ盛りの子犬が来ることを見越して、さらに郊外の一軒家に越した。ただ、片道40キロという通勤の不便さがネックだった。そして、そこで「3.11」を迎えた。「ちょうど電車からバイク通勤に切り替えていたので、その日は無事職場から犬たちのもとへ帰れたのですが、その日を境にいざという時に帰れなくなることが不安になりました。それで、職場に近い今のアパートに移ったんです」。周辺の相場からすれば家賃は高い。でも、大型犬2頭と暮らすという条件を認めてくれる賃貸住宅はそうそうないから仕方がない。自家用車もどんどん犬仕様になっている。機械関係の専門職だった父の影響もあり、車の運転や整備が好きで、国産スポーツカー日産『スカイラインGT-R』に乗っていたが、神威が成犬になる頃には車内スペースが広いステーションワゴンに。風蓮を加えた2頭と移動する今は、快適な犬連れ車中泊ができる大型のワンボックスカーになった。
「医療費はもちろん、食費も自分より犬の方がかかっているんじゃないでしょうか。職場でも犬のために休んだり早退したりすることを許してもらっています」。上司や同僚に事あるごとに犬の話題を振り、職場に「藤岡は犬のために生活の全てを捧げている」というコンセンサスを築いた。「べったり犬漬けの生活ですよ。今、自分から犬を取ったら何が残るんでしょうね」。風蓮を迎えたのも、犬がいなくなることへの恐怖心からだ。「私の方が分離不安症なんです。神威に何かあっていなくなってしまったら壊れてしまうかもしれない。その時に、もう1頭いればまだ気がまぎれる。フウ(風蓮)には悪いけれど、いてくれれば心が持つかと、2頭目が欲しいと思ったんです」
「神威」「風蓮」の名前は、犬連れ旅行の旅先としてあこがれていた北海道の地名から取った。神威と風蓮が若いころは、ディスク競技や訓練競技にチャレンジして全国の大会を巡った。2頭が競技から引退してからも、休みといえば、車で旅行だ。犬を泊めてくれる宿泊施設はまだ日本には少ないし、そうそうお金もかけられないので、たいていは車中泊。北海道に渡って神威岬と風蓮湖にも行った。特に岬巡りが好きで、全国東西南北の“最果ての地”を制覇した。最後の神崎鼻(長崎県佐世保市)を制覇した後に「日本本土四極踏破証明書」を、神威と風蓮の連名で発行してもらった。「この子たちと生きた証明が何か欲しかった。これをもらうための旅でもあったのかもしれません」。