伝統に触れ「給食」おいしさ増す 秋田県湯沢市、おわんを漆器に
ろくろで回転するおわんに向かって鉋(かんな)を当てる。1分ほどでおわんの底の高台が仕上がった。15歳で住み込みで弟子入りして以来40年超、木地を作り続けてきた技が光る。「子どもたちには手触り良く使ってもらいたいなあ」。新山敏郎さん(63)が目を細めた。 給食で使った漆器を掲げる稲川小の児童 秋田県湯沢市は来年度から2年間かけて学校給食で使う汁物用の器をプラスチック製から漆器のおわんに切り替える。800年の歴史を誇る伝統工芸品、川連漆器の産地であり、児童に郷土の文化に親しんでもらう狙いだ。 計画が立ち上がったのは約5年前。給食センターの自動食洗機でも扱えるよう、サイズと強度の両立を模索してきた。木地が厚い川連漆器は丈夫で普段使いできるのが特徴。おわんの底は厚さが1センチ程度あるのが一般的だ。一方、おわんを重ねて食洗機に収めるには厚さを2・5~6ミリに仕上げなくてはならない。 新山さんら職人が数十もの試作品を作って食洗機で検証。熟練でも製造途中に割れやすく、製法も見直した。学校での試用を経て、直径12センチ高さ6センチの朱色の漆器に決まった。 市内全ての小中学校と特別支援学校で使う2900個を職人らが国産トチノキから1個ずつ手作りする。半年ほどかけて乾燥させながら木地を作り、3段階に分けて漆を塗る。 来秋、中学校から漆器を使い始める。1個9000円以上する品だが、市には半額以下で納める。県漆器工業協同組合の佐藤公理事長は「地元でも漆器を使う機会が減っている。手に取って給食を味わってほしい」と語る。 川連漆器の地元にある市立稲川小学校では、先行して4、5年生が使用。プラスチック製から代わったことで、子どもたちが丁寧に扱うようになったという。 10月11日の給食は、ナメコのみそ汁。瀬川結菜さん(10)は「見栄えが良くなった」と喜ぶ。祖父が米作りをしている村上龍之介さん(11)が「ちょっとおいしくなった」というと、クラスメイトの根元奏輔さん(11)が笑顔でうなずいた。
日本農業新聞