「台湾で日本兵が神となった訳」"おばけの人類学" 知らないことばかりの教養講座
「日本神」にも「亡霊」という言葉が使われていますが、台湾現地でも「おばけ」みたいな意味になるそうです。 ■人は死んだら「神様」「鬼」「祖先」のどれかに 藤野教授は「現地の世界観、他界観を理解することが大事だ」と話しています。台湾では死ぬと「神様」「鬼」「祖先」のどれかになると考える文化があるそうです。 (1)まず、「神様」。まつるとプラスの力をくれます。まつらなくても特に害はありません。 (2)逆の立場が「鬼」。まつっても特にいいことはないけれど、まつらないと祟る、恐ろしい存在。 (3)「祖先」は、その中間。まつると「神様」と同じくプラスの力をくれますが、まつらないと「鬼」のように祟る。 「鬼」、日本でいう「幽霊」に当たる言葉です。当時の台湾は土葬文化で火葬の習慣がなかったのですが、旧大日本帝国時代の火葬場の跡は怖いわけです。放置された鬼が祟ると、ザッザッと軍靴の音が聞こえたり、幻を見せて豪勢な料理とだまして虫を食べさせたりすると伝えられています。 ■まつられれば「鬼」も「神」になる 死後の3つの形について、藤野教授がもう少し詳しく話しています。 藤野陽平教授:天寿を全うし、自宅のベッドの上で亡くなり、男系の子孫がいて常に供養を受けていると「祖先」になりますが、そうじゃないと「鬼」になると思ってください。台湾でまつられている日本人は、戦死した軍人が多いんですね。多くの場合、若くて子孫がいない。天寿を全うしていない。血を流して死んでいる。台湾の文脈では、これは「鬼」になるのです。 藤野陽平教授:ですが、一度「鬼」になったら、ずっと「鬼」か。そうではなくて、子孫がまつってくれれば「祖先」に、いろんな人からまつられているうちに「神様」になったりします。そういうダイナミックで動きのあるものだ、と理解してください。 面白いですね。天寿を全うしないで、子孫を持たないで異常死をしてしまった人の祟りを怖れて、子孫がまつると「祖先」になる。多くの人がちゃんとまつると、ご利益がある「神様」になっていく。日本でも、菅原道真が「天神さま」になっていった例がありますね。アジアの宗教意識の深いところに共通する古い地層があるような気がします。