<スポーツの今>今春、センバツ初出場の只見高へ 熱戦がもたらしたプレゼント
今春の選抜高校野球大会に21世紀枠で初出場した福島県立只見高野球部(同県只見町)。奥会津の豪雪地帯にある町中が根雪に覆われる冬場を前に「室内練習で使ってほしい」と大量のバドミントンのシャトルが届けられた。贈ったのは、部の在り方に感激した他県の指導者。選手は「思いがけないプレゼントで、ありがたい。このシャトルで打撃力を上げ、もう一度甲子園へ行く」と意気込む。 【写真特集】 東北の悲願達成 決勝戦 仙台育英vs下関国際 10月下旬、夕方の町下(まちした)野球場。それまで静かだった山あいの集落に、金属バットの打球音が響く。「よーし、ナイスバッティング!」。部員たちの掛け声もどんどん大きくなり、球場周辺はにわかに活気付き始めた。近所の男性(83)は「若い人たちがはつらつと動いているのは、見ていて気持ちがいい。甲子園にも出たんだから、町の誇りですよ」と目を細めて見入っていた。 ただ、こんな光景が見られるのもあと1カ月ほど。大雪が降ると屋外での練習は困難になる。そこで代わりに部員たちが取り組むのが、体育館など屋内でも行える、バドミントンのシャトルをバットで打ち込む練習だ。 長谷川清之監督(55)が15年ほど前に採用した練習方法で「冬に外で練習できないのは、この町では仕方のないこと。シャトルを使った練習でバットを振る力が付けられるし、投球練習にも使える」と効果を説明する。 これらのシャトルを贈ったのは、聖ウルスラ学院英智高(仙台市)バドミントン部の田所光男総監督(71)。同校は、2016年リオデジャネイロ・オリンピックで金メダルを獲得した高橋礼華さん、松友美佐紀さんの「タカマツ」ペアを出した名門だ。田所総監督は只見町とは縁もゆかりもなかったというが、野球部員が豪雪にも負けず工夫して練習していたことを知り「ハンディキャップがある中で頑張る球児の姿に感動した」と練習で使えなくなったシャトルを贈ろうと思いついた。 今回贈ったのは大きなポリ袋10袋分で、「7000個くらいはあるのでは」。田所総監督は「このまま捨ててしまうより、只見で利活用してもらえるならこちらも助かる」と10月初旬、片道約250キロを自ら車を運転して只見高まで届けた。 鈴木詠大(えいと)主将(2年)は「甲子園では地元の皆さんに熱心に応援してもらってうれしかったけど、今度は県外の人からの支援。来年の夏に向けて、頑張らないわけにはいかない」と感謝しきりだった。 シャトルは、うまくミートできないと羽根の部分がすぐに壊れてしまう。さらに、2年生5人、1年生6人の小所帯では、少量だと全部打ち終わった後に回収する回数が増えて時間がかかるといい、「これだけたくさんあれば効率よく練習できる」と喜ぶ。センバツでは三塁手として出場したが無安打で終わり、「この冬は思う存分打撃練習ができそう。絶対に甲子園に戻ってヒットを打ちたい」と意欲を新たにする。 センバツ時に主将だった吉津塁さん(3年)は甲子園での経験を経て、大学でも野球を続けることを決意した。「センバツではたくさんの人に応援され、素晴らしい経験になった。トップレベルとの力の差を感じたからこそ、もっと上のレベルでプレーしたくなった」といい、今も時折練習に加わっている。 1―6で敗退したセンバツの大垣日大(岐阜)戦はテレビで観戦したという田所総監督は「とてもひたむきにプレーしていた。『これぞ21世紀枠だ』と感動した」。バドミントン部の倉庫にはまだ多くの使用済みのシャトルが眠っているといい、「もう一度、甲子園で輝く只見の選手たちが見たい。追加が必要になればまた届けに行くので、全部壊してしまうくらい熱心に練習して」と熱いエールを送る。【竹田直人】