新幹線開業60年(1)追いすがる各国高速鉄道
日本の優位性、特性は?
時は流れ、高速鉄道の定義も変わってきた。現在は、専用の高速鉄道のために設計された「高速新線」であれば時速250キロ以上、在来線の改良であれば時速200キロ以上で列車が走行可能なものと定義される。かつては新幹線の独壇場だったが、各国が独自の高速鉄道を導入する中で、もはや新幹線は独占的な地位にはない。 高速新線としては世界で2番目、1981年に開業したフランスのTGV(Train à Grande Vitesse)が代表格だ。高速新線は90年代には主に欧米で、次いで2000年代にはアジアで広まった。近年では2023年にインドネシアで走り始めた。もはや一般的な乗り物となった高速鉄道ながら、自国の技術で車両や線路、施設まで一貫して開発、製造できる国は少ない。実質的に日本、フランス・ドイツ・スペインなどの欧州連合、中国の3グループに限られている。 世界の高速鉄道の中における新幹線の位置付けはどうであろうか? 新幹線は他の高速鉄道より何が優れているのだろうか? インドネシアでの高速鉄道プロジェクトを振り返ってみよう。入札に参加した日本は、JICA(国際協力機構)が中心となって「インドネシア国ジャワ高速鉄道開発事業準備調査(フェーズI)ファイナル・レポート(要約版)」を2015年(平成27)年5月に作成している。 この報告書の「各国システムの比較」では、日本の新幹線、フランスの「TGV」、スペインの「AVE」、中国の「鉄路高速(CRH)」、韓国の「KTX」と比較検討し、「新幹線システムは他よりもすぐれた快適性を有しながら、最も省エネルギーで走行することができ、かつ、地震、雨等インドネシアにおいても課題となっている自然環境に対してもっともふさわしいシステムであるといえる」と結論づけている。 日本側がセールスポイントとして訴えたのは、旅客1人当たりの必要電力や車両の重量、余裕のある座席間隔、耐震性能、多雨への耐久性、急勾配にも対応できる登坂力であった。これらの数値はいずれも、日本が最も優れるか、もしくは同点評価の1位だった。新幹線は大量の旅客を効率的に、広いスペースで運ぶことができ、悪条件下にも強いという特徴が如実に示されていた。 例として示された東北新幹線の「はやぶさ」などに用いられるE5系車両では、乗客1人当たりの必要電力は13.1キロワット(kW)で、車両重量は0.62トン。TGVは26.0kW、1.18トン。AVEは22.0kW、0.89トン。KTXは24.2kW、1.11トン。「はやぶさ」は、いずれに対しても半分程度で優秀性が際立っている。