girl in redが語るポジティブな新境地とフジロック「日本は最高にクールな国」
テイラー・スウィフトからの深い学び
―7月にはフジロック出演のために日本に帰って来てくれます。このフェスのことは知っていましたか? マリー:うん、富士山の付近で開催されているアイコニックなフェスだと知っていたから、去年東京から大阪まで新幹線に乗った時に、窓から富士山の写真をバッチリ撮っておいた。っていうか、そもそも日本に行けたことは私の人生を変えたと言っていいくらいの重要な体験で、日本についてもっと知りたいし、できれば何カ月も滞在したいって思ってる。マジな話、私がこれまでに訪れた中で最高にクールな国だから、日本語が話せたらって思わずにいられないし、とにかく大好き! ―がっかりさせるようで申し訳ないんですが、会場は富士山麓ではないんです。初回は富士山麓で開催したんですが、豪雨に見舞われて安全性に問題があることが分かり、名前はそのままに会場が変わったんですよね。 マリー:そうなんだ! だったら仕方ないね。安全第一じゃないと(笑)。 ―フェスでのオーディエンスは言うまでもなく、ファンばかりとは限らないわけですが、そういうオーディエンスを味方にする秘訣とは? マリー:やっぱり、そこにいる人たちは自分のファンじゃないんだってことを、常に忘れないでおくのが重要なんだと思う。みんな私の音楽に興味がないかもしれないし、冗談ばっかり言うのはやめて、合間のお喋りも控えめにして、みんなに楽しい時間を過ごしてもらえるように最善を尽くすしかないのかな。 ―昨年テイラー・スウィフトの「The Eras Tour」で前座を務めた際も、まさに同じ状況でしたよね。昨年のインタビューで、「人がまばらなスタジアムでプレイすることもあり得るわけで、過剰な期待をするのは良くない」と発言していました。結果的にはどんな体験になりました? マリー:全然問題なかった!(笑)あの時も間違いなく、オーディエンスを自分の味方につける努力が必要だったし、前座が出演する時間から会場にいる人ってみんな、より熱狂的なテイラーのファンなんだから、まずは自分のエゴを捨てないと。「ここにいる人たちが私というアーティストを記憶に留めて、あとで私の音楽を聴いてもらうために、今この瞬間自分のベスト・パフォーマンスを見せるにはどうすればいいのか」ってことに集中するのが、メインアクトが誰だろうと、前座を務める時の正しいメンタリティだと思う。 ―『I’M DOING IT AGAIN BABY!』に向かう気持ちに何らかの影響はありましたか? マリー:あの時点でアルバムは仕上げ段階にあったから直接的な影響はなかったけど、今後どんな風に音楽活動を続けていくかという姿勢においては、間違いなく影響を受けた。以前にも増してテイラーの大ファンになったし、エモーショナルな面で深くインパクトを受けたから、この先私がやっていくだろうこと全てに、今回の体験が反映されるんじゃないかな。前座を務めていた間、私は毎晩彼女のパフォーマンスを観たんだけど、毎回非の打ち所がなくて……テイラーは東京にも行ったよね? あなたも観に行った? ―ええ。驚異的なショウでした。 マリー:ね、本当にすごかった。例えば30代の男性で、テイラーなんか好きじゃないけど、ガールフレンドが行くから付き添いで観に行くという人がいるとするじゃん。全くテイラーに興味が無くて、ガールフレンドを愛しているから仕方ないっていう。「The Eras Tour」ではそういう人が大勢いたと思うんだけど、みんな観終わった時には「うわー、最高だったね!」と言いながら会場をあとにしたはず。それくらいすごい内容で、おかしなことなんだけど、彼女は今の時代に数少ない、世界をひとつにつなぐことができる存在のひとつなんだよね(笑)。とにかく、それだけのことを成し遂げられるテイラーの労働倫理を間近で実感したし、しかも彼女はユーモアのセンスがあって、エンターテイニングで、コンサートは隅々まで考え抜かれていて、「The Eras Tour」は歴史上最高のショウだと私は思ってる。自分が活動していく上で、参考になることばかりだったな。 ―最後に、5月に登場したトーキング・ヘッズのトリビュート・アルバム『Everyone’s Getting Involved: A Tribute to Talking Heads’ Stop Making Sense』について伺います。クィア女性であるあなたが「Girlfriend is Better」をカバーするのは納得のチョイスなんですが、謎めいた歌詞をどう解釈していますか? デヴィッド・バーンが浮気の反省を題材にしたという説もあるんですが……。 マリー:へえ、その説は初耳! 笑えるね! 私自身は以前からずっと、不条理そのものをテーマにした曲だと捉えていて、歌詞はまさに不条理極まりなくて理解不能だし、そういう意味でデヴィッドが“Stop making sense!(無意味でいいんだ!)”と促しているところが大好き。不条理というコンセプトは多くの人の心に響き得るんだと、訴えているように思う。私はこの曲にポップなエッジと構造を与えようと意識しながらカバーしたんだけど、仕上がりはすごく気に入っているし、実際ポジティブなリアクションが返ってきていて、ホッとした。トーキング・ヘッズと彼らのファンベースに嫌われたくはないから(笑)。 --- ガール・イン・レッド 『I’M DOING IT AGAIN BABY!』 発売中 FUJI ROCK FESTIVAL ’24 2024年7月26日(金)27日(土)28日(日)新潟県 湯沢町 苗場スキー場 ガール・イン・レッドは7月27日(土)出演
Hiroko Shintani