girl in redが語るポジティブな新境地とフジロック「日本は最高にクールな国」
みごとソールドアウトになった初来日公演から1年半、ノルウェー人シンガー・ソングライターのガール・イン・レッドことマリー・ウルヴェンが、フジロックにやって来る。その1年半の間に2作目『I’M DOING IT AGAIN BABY!』を完成させ、敬愛するテイラー・スウィフトの「The Eras Tour」の北米6公演で前座を務めて、自らもキャリア最大規模のツアーを始めた彼女に、自分の心の脆さを赤裸々に綴った傑作1st『if i could make it go quiet』(2021年)のそれとは一線を画す、現在のモードについて訊いた。 【画像を見る】ローリングストーン誌が選ぶ「歴代最高の500曲」
ハピネスを受け入れるまでの葛藤
―新作『I’M DOING IT AGAIN BABY!』が4月にリリースされてから数カ月が経ちました。ファンやメディアの反応やライブで得た手応えを踏まえて、この作品について改めてどんな風に感じていますか? マリー:やっぱりこうして少し時間が経って、その間にアルバムが世に出て独自の命を得て、成長しているようなところがあると思う。みんながここに収められている曲を知ってくれて、愛してくれて、どんどん浸透していくのを目の当たりにするのはすごく楽しいし。それって私には想定外で、リリースしてみないと分からないことだから、特にライブでのみんなのリアクションを見ていて興味深かった点かな。 ―ちなみに本誌は、昨年1月に来日した際にもインタビューをさせて頂いたんですが……。 マリー:そうだよね! 覚えてる。東京公演の会場のバックステージで会ったんだったっけ? ―そうです。その時にアルバムの進捗について訊いたら、「今の私は奇妙な宙ぶらりんの状態にあって、何を書いていいのか分からなくなっている」とあなたは言っていました。少々行き詰まっているように見えたんですが、その後何が起きたんでしょう? マリー:確かに私はライターズ・ブロックに悩まされていて、結構長い間そういう状態が続いたんだけど、最終的には、当時の自分のポジティブな気分から生まれるエネルギーをうまく活かすことができた。そしてそこから導き出したのが、タイトルでもある“I’M DOING IT AGAIN BABY!(もう一回やるよ、ベイビー!)”というコンセプト。要するに、自分が世界の頂点に立っているように感じていて、自己肯定感に満ち溢れているんだという想いが、込められているんだよね。こういうモードで行こうと納得したところから物事が順調に進むようになって、どんどん楽しいアイデアを思い付いて、ヴィジュアル面を含めてアルバムの周りに独自の世界を構築していった。そうやってライターズ・ブロックを克服したわけ。つまり私自身が、「そうか、今回は悲しいアルバムにはならないんだな、アップビートで楽しいアルバムになるんだな」と認めることが重要だった。とは言いつつも、今ツアーでソルトレイク・シティにいて、空き時間に新曲を作っているんだけど、ここにきてまた悲しい曲が出来てしまって(笑)。本当にその時々で違うし、どんな曲が生まれるか分からないんだよね。だから何が面白いかって、アルバムのリリースから1カ月以上経って、すでに新しいアイデアが続々湧き出ていて、次に言いたいことが色々あって、音楽を作っていて楽しいのはやっぱりそういう部分なんだよね。とにかく作り続けて、上を目指していくっていう。 ―なるほど。やっぱり“サッド・ガール”的なイメージがあるあなたの場合、楽しいとか気分がいいとか、ハッピーな内容の曲を受け入れるまでに少し時間を要したんですね。 マリー:その通り。最初は葛藤があった。何しろ私が曲を発表するようになってからそれなりに時間が経っていて、その間に、ガール・イン・レッドの音楽は少し悲し気なものだという認識がある程度定着していたわけだから、ある種のメンタル・ブロックみたいなものがあったことは否定できない。「いやー、別に誰がどう思おうと関係ないから!」って強がることもできるけど、究極的には、自分が作った音楽を大勢の人に聴いてもらいたいじゃない? そのせいで、間違いなく自意識過剰になっていた。よりハッピーでアップビートなサウンドで、ラヴとか高揚感といったテーマを歌う作品を作ることを躊躇するというか。そんな葛藤と向き合いながら、私はずっと心理セラピーを受けていたんだけど、ある日セラピストにこう言われたの、「無防備であることは、悲しみを表現することだけを指すわけじゃない。ハピネスを表現することもまた、無防備さの表れなんです」と。その言葉が心にすごく強く響いて、考え方を切り替えることができた。「ハッピーでアップビートな曲を作るからって、自分の感情に寄り添っていないことを意味するわけじゃないんだ。むしろ、自分の感情に正直であるために、ハピネスを受け入れたらいいんだよね」と。 ―それに1stの時とは違って、新作を心待ちにしているファンが大勢いたわけですから、そういう期待感もあなたが言う自意識過剰な状態に影響したのでは? マリー:うんうん、新しい曲も気に入って欲しいと思うわけだから、間違いなく自意識に影響があった。ただ今は奇妙なことに、すごく解放感がある。「もう私はあれこれ気にしない、これからは自分がサイコーだと思うものだけを作るぞ!」っていう感じで、それを気に入ってくれる人がいるならクールなことだし、ようやく“2ndアルバムのプレッシャー”ってヤツが一掃されて、ものすごく気分がいいんだよね。 ―「I‘m Back」に“The ups and downs and what-ifs / It’s all a part of being alive.(アップとダウンと色んな仮定/全ては生きることの一部分)”と歌っている箇所があります。究極的に、ここが全体を総括しているんじゃないでしょうか? マリー:まあね。そういうところもあるんだけど、私はそもそも、みんながやたら物事を“総括”したがることにちょっと違和感を覚えていて。世の中に、そんなにイージーに総括できることってあまり無いんじゃないかと思う。確かにこのアルバムは様々な異なる要素を包含していて、たくさんのアップとたくさんダウンとその間にあるものが網羅されているわけだから、総括するんだとしたら一番適したフレーズなのかもしれないけど。