エンタメ考察芸人・大島育宙が「THEゴールデンコンビ」の“推せる”ポイントを解説
8人の芸人が本来の相方とは別の芸人を指名し、コンビを組んで即興コントバトルに挑むAmazon Original新番組「最強新コンビ決定戦 THEゴールデンコンビ」。エンタメ考察YouTuberとしても知られているXXCLUB大島育宙が作品をひと足早く鑑賞し、ひしめく配信お笑い番組の中でも“推せる”と感じたポイントを紹介する。 【画像】「最強新コンビ決定戦 THEゴールデンコンビ」キービジュアル(他10件) 取材・文・インタビュー撮影 / 狩野有理 ■ 「最強新コンビ決定戦 THEゴールデンコンビ」とは 令和ロマンくるま、霜降り明星せいや、ネプチューン堀内、チョコレートプラネット長田、ハライチ澤部、男性ブランコ平井、ラランド・サーヤ、ダイアン津田の8名が、「コイツと組めば絶対優勝できる」を思う相方を指名し、1日限りのオリジナルコンビを結成。優勝賞金1000万円を懸け、高難度なお題に対して即興コントを繰り広げていく。くるまはマヂカルラブリー・野田クリスタル、せいやはハナコ秋山、堀内はニューヨーク屋敷、長田はシソンヌじろう、澤部はスリムクラブ真栄田、平井はロングコートダディ堂前、サーヤはしずるKAƵMA、津田は永野を指名。各ステージ、観客200人による審査で「一番面白くなかった」コンビが脱落する。“ゴールデンコンビ”の称号を手にするのはどのコンビなのか。Prime Videoにて10月31日(木)18時に全5話一挙独占配信。 ■ “推せる”ポイントは時代に合ったヘルシーさ 配信系のお笑い番組は基本的にすべてチェックするようにしていますが、心から推せる作品に出会えるのは何本かに一本。「この部分は無理しているな」「面白いということにしてしまっているな」と気づいてしまうとやっぱり推せません。その点、「THEゴールデンコンビ」は全体のバランスがよくて戦い方がヘルシーで、観ている側のメンタル的な安全性が高い。「ドキュメンタル」(Prime Video)も「大脱出」(DMM TV)も配信されたら寝る間を惜しんで全話一気見するくらい好きですが、向いている芸人が限られていますよね。「トークサバイバー」(Netflix)も暴露話を持っている人が強かったりする。でも「THEゴールデンコンビ」だけは、面白い人は誰でも参加と活躍の可能性があるのが特殊な魅力だと思いました。クリエイティビティがあれば誰でも参加できる。このたった1つのことが参加条件になっているのは、サブスクのお笑いコンテンツの中で実はほぼ初、と言っていいかもしれません。このあたりが「ヘルシーさ」の理由であり、今の時代に合っている気がします。 また、これも「ヘルシー」という印象につながるのですが、出場者たちは本当に組みたい人を選べているんだろうなと感じました。テレビっぽい人や売れている人を選んだほうがいいんじゃないかといった大人の事情なしで、本当に自分にとっての最強の相方を忖度なく選んだ。その“生っぽさ”によって、各コンビの組み合わせが違和感なくすんなり入ってきましたし、すごく納得感がありました。自分に足りないものを求めて完璧なコンビになろうとした人もいれば、正直、考えが甘い人もいたと思います(笑)。でも、それはそれで人間性が出ていて面白い。仲がよすぎない人と冒険してみたいという芸人心もあっただろう中、平井さんや長田さんはそこを捨てて完全に勝ちに来ている人選でした。勝つために本気のラブコールを送る、「恥ずかしい」なんて言っていられない、というところが熱いです。 僕自身、出演者の半分くらいは知り合いではありますが、そういうのを取っ払ってただのお笑い好きの中学生としてシンプルな感想を言わせてもらいます(笑)。めちゃくちゃ面白かったのはもちろん、“観たいものが観られた”という感覚になりました。普段はできない、芸人の“本当にやりたいこと”をやらせてくれている芸人ファーストな作りになっていることもうれしかったし、「ウンナン極限ネタバトル!ザ・イロモネア」「史上空前!! 笑いの祭典 ザ・ドリームマッチ」(共にTBS)、「内村プロデュース」(テレビ朝日)といった平成の面白かったお笑い番組を今の世代で全部一気にやっている“お得感”も含めて、だいぶ推せるなと思いました。 ■ 「極端なことをしないと面白くないのか?」 下ネタが少なかったことも推せるポイントです。「極端なことをしないと面白くないのか?」という過激思考がこのサブスク時代のお笑いには少なからずあって、その1つのゴールが「ドキュメンタル」だと思うのですが、「THEゴールデンコンビ」はその逆のものを作ろうという挑戦としても受け取れます。コンビネーション×即興力×生の客前という、いい意味で地上波的な作り方でもあるから、そこに過度な下ネタはそぐわない空気だったはずです。それによって体を張るタイプではないブレーンの人たちが活躍した。その場の即興力が試されるというルールが、純粋なお笑い戦闘力を競う土俵としてどの芸人にもフェアだったと思います。持ちネタみたいなものや、有名だからできることが通用しないから、基本ゼロベースでのネタが披露されているのも面白かったです。 Prime Videoのお笑い番組で成功したもので言えば、関西芸人をはじめとする男臭い人たちが活躍するゴリゴリのお笑い企画が多かったイメージですが、戦闘力や戦い方のバリエーションをずっと考えているくるま、サーヤが中心的に空気を作っているのは非常に誇らしく思いました。私事ですが2人とは学生時代から一緒にライブを作っていた仲間でもありまして……! 当時から先輩に物怖じせず自分のやりたいことを貫いてた彼らがこのお笑いのど真ん中で戦ってるのが勝手にうれしく、一生自慢したい存在です(笑)。個人的にはどうしても2人がどこまで勝ち進めるかに注目して観てしまいましたね。 ■ MC千鳥が慕われる理由 「M-1グランプリ」以降、さまざまな場面で競わされてきた人たちだからこそ、千鳥さんは出場者の気持ちに寄り添った解説をしてくれます。かなり初期から大スターだったダウンタウンさんやナインティナインさんは味わっていないだろう、常に戦わされてきた芸人たちの痛みを、賞レース時代出身の千鳥さんは知っている。千鳥さんが芸人やお笑いファンから「面白い」と言われてから実際に売れるまで、おそらく十数年くらいタイムラグがありましたが、そのしんどい時期の気持ちが今の千鳥さんのスタイルを作っていると思います。VTRでスベっていればスベっているほど、千鳥さんがスタジオでウケさせてくれるし、スベっている人より変なことを大悟さん自らやってくれたりする。そしてノブさんが説明して笑いにしてくれる。ただ単に優しいんじゃなくて、本人はめちゃくちゃお笑い至上主義ではありながら、リスクを一緒に背負ってくれるMCって千鳥さんのほかにいないんじゃないでしょうか。MCクラスの人たちの中で一番、捨て身で芸人ファースト。すでに若手の芸に◯✕を出すポジションではあるけど、大悟さんはプレイヤーとしてこのバトルの中に入りたそうにしているように見えるのも、ものすごい魅力だと思います。 ■ この物語の主人公はニューヨーク屋敷 個人的には澤部さんと真栄田さんのコンビが一番好きでした。真栄田さんの溜めて、溜めてからの一撃必殺、言葉のセンスや大喜利力がとにかく強くて痛快! 同じく片方が主導権を握ってもう片方がリアクターになっているコンビとしてホリケンさんと屋敷さんのコンビがいますが、屋敷さんだけが番組のルールと、ホリケンさんが持ってくるルールという2つを背負って戦っているのも印象的でした。そんなのはもう超ハードモードなわけですが、ひとたび笑いが起これば盛り上がりは倍増。千鳥さんが心折れそうになっている屋敷さんにツッコんだりするのも含めて、ホリケンさんはきっと策士だから、そういう物語を想定して屋敷さんを選んだのかもしれません。準備段階で屋敷さんができることって何もないんですよね(笑)。それがかわいそうでもあり、この物語の主人公でもあったと思います。 くるまが実は似たプレイスタイルの野田さんと組んで芸を披露しているのはけっこうすごいことだなと思いました。ふくよかな相方を情報とアイデアの量で圧倒するボケ人間同士ですよね。普通は違うタイプと組みたいはずで、バランスは絶対に悪いはずだけど、即興芸だからこそアイデアの数が勝負だという判断をくるまはしたんだと思います。澤部さんとは真逆の作戦ですね。存在感やキャラよりも情報量をより多く作れる人を選んだんじゃないかな。 コント力で言うと、サーヤとKAƵMAさんのコンビ。この2人はオチがなくてもずーっとできちゃう、演技力で延々と引っ張れちゃうみたいなところがあって、10分ネタとか、なんなら単独ライブを観てみたいと思いました(笑)。そのくらいマッチしていた。ただ、最初からサーヤがそれを狙ってKAƵMAさんを指名したのかどうか。もしかしたら本番、思惑と違う芸になっているかもしれませんが、それがこの即興の醍醐味でもありますよね。本人に裏話を聞いてみたいです! せいやさんと秋山さんがちょこちょこっと打ち合わせして、「わかった」と言っている姿はもっと見たいなと思いました。粗品さんといるときとはきっと全然違うせいやさんだったでしょうから。そういった舞台裏の様子が映るのは貴重な気がしましたし、みんなとにかく楽しそうなのもわかりました。苦しそうな人は屋敷さんぐらい(笑)。だからこそ屋敷さんが主人公になっていたと僕は感じました。誰を軸に観るかでいろんな楽しみ方ができそうです。 ■ お笑い養成所の教材になる 「THEゴールデンコンビ」を観て思ったのが、これは純粋なお笑いの教科書になるんじゃないか?ということです。「相方とは何か」を考えさせるいい教材だと思います。ネタ作りを教える前に、お笑い養成所の1時間目に見せるべきじゃないでしょうか(笑)。みんないいコンビだけど、自分がどのパターンを目指しているかで選ぶ相方は変わってきますよね。「澤部・真栄田パターンで行きたいなら、真栄田を相当信用してないと澤部にはなれないぞ!」みたいな、仕事論と言うと大げさですが、「自分は誰っぽいな」と当てはめながら仕事上のパートナーについて考えられる。まあ、果たして今回優勝したコンビが会社を起こして成功するのかと言ったらそれはそれで揉めそうな気がしますが(笑)。仕事だけじゃなく、例えば結婚相手だったら、このコンビのパターンだと私たちうまくいきそうだ、とか。 ■ 膨らむ妄想 この「THEゴールデンコンビ」に呼ばれるのが夢、みたいな感じになったらいいですよね。オードリー春日さんくらいのクラスで、実は大喜利もできて肉体のイメージもあって脱いでも下品にならない人が入ってきたらどうなるんだろうと想像が膨らみますし、相方を操ってきたハライチ岩井さんがこういう場では誰を選んでどんな戦い方をするのか見てみたい。岩井さんと春日さんが組んだらやばいです。夢見すぎかもしれないですけど(笑)。「野田さんが今度は選ぶ側だったら誰を指名するだろう」とか、お笑いファンだったらこういう妄想のトークだけで5、6時間は話せる。そのフォーマットが最強だと思います。次回があるとすれば、女性の比率が上がるといいなと思います。蛙亭イワクラさん、吉住さん、オアシズ大久保さんとかも見てみたい。半年に1回か1年に1回、設定はパワーアップさせなくてもいいから、ぜひ続いてほしい番組です。 芸人たちのパラレルワールドを見ている気分になれるという楽しさもありました。「もしニシダと組んでいなかったら?」のサーヤが見られたし、翻って元のコンビが見たくなるのもこの番組のよさだと思います。「ロングコートダディと男性ブランコのコントってどうだったっけ?」と確認したくなる。「意外と嶋佐さんは屋敷さんを振り回してなかったんだ」というのにも気づけました(笑)。異世界から元の世界に戻ってみると、元のコンビもより素敵に見える。「あっ、夢だったんだ」って。お笑いファン向けの夢ですね。 ■ プロフィール □ 大島育宙(オオシマヤスオキ) 1992年12月17日生まれ、東京都出身。厳格な家庭に育ち、テレビはほとんど禁止されていたため中学時代は友人に録画してもらったお笑い番組のDVDを学校でこっそり観ていた。東京大学在学中は他大学のお笑いサークルに参加。そこで出会った相方の早乙女零とXXCLUCを結成した。YouTubeで「大島育宙【エンタメ解説・映画ドラマ考察】」を配信中。「こねくと」毎週火曜(TBSラジオ)、「GRAND MARQUEE」毎週水曜(J-WAVE Podcast)、「週刊フジテレビ批評」(フジテレビ)などに出演。ほか、連載多数。タイタン所属。 (c)2024 Amazon Content Services LLC or its Affiliates.