イギリスの政治と日本の政治 財政健全化できるのは? 内山融・東大院教授
5月7日、イギリスで総選挙が行われ、保守党キャメロン政権の続投が決まった。以前の記事(「イギリスの政治と日本の政治 何が違うのか」)でも解説したとおり、日本とイギリスの政治は違う点が多い。もちろん、イギリスの政治は何でも日本より素晴らしい、と言うつもりは全くない。ただ、イギリスの選挙や政治のあり方から日本が参考にできるものがあるのも確かである。ここでは財政健全化に焦点を当ててみたい。
マニフェスト冒頭に財政健全化
このイギリス総選挙で重視された争点は財政健全化だったが、実は二大政党である保守党と労働党の主張はそれほど大きく違わなかった。両党とも財政健全化を優先課題として訴えていたのである。 今回の保守党マニフェスト(政権公約)は、冒頭に財政健全化を掲げている。それによれば、同党の財政健全化への道筋は2段階からなる。第一に、最初の2年間(2016年~2017年)で政府支出を1%ずつ削減する。これは2年間で300億ポンド(約5兆6千億円)の財政健全化を必要とする。第二に、次の2年間(2018年~2019年)で財政黒字を実現する。政府債務を減らしていき、2019年以降はGDPとともに支出も増大していく予定である。 労働党のマニフェストも、冒頭で財政健全化を訴えている。「財政責任安全装置」と銘打って、(1)マニフェストに載っている政策の財源を十分に手当てし、追加借り入れを行わない、(2)毎年財政赤字を減らしていく、(3)次の議会の任期中にできるだけ早く財政黒字を生み出す、の3点を公約している。 第三党となったスコットランド民族党が「緊縮財政の終了」を訴えていたものの、以上で見たとおり、今回のイギリス総選挙での議論は財政健全化の方向が基調であった。2010年に誕生したキャメロン政権は財政赤字を着実に減らしてきたが、今後も、マニフェストに従って財政健全化を実行に移すと考えられる。
赤字をどのように削減するか
日本でも、債務残高がGDPの2倍を超えており、財政健全化は重要課題である。政府の計画では、2020年度までに基礎的財政収支(プライマリーバランス)の黒字化を目指すことになっている。基礎的財政収支とは、税収などの収入と、国債費(国債の元本返済や利払いの費用)以外の歳出との差のことであり、その年の政策経費をどれだけその年の税収などでまかなえるかを示す。 しかし、現時点での予測では、このままだと2020年度には9.4兆円の基礎的財政収支の赤字が発生する。この試算は、実質2%以上・名目3%以上という高い経済成長率を前提としたものなので、もし経済成長率がそれを下回れば、もっと多額の赤字が発生することになる。 現在、経済財政諮問会議を舞台として基礎的財政収支黒字化への方策が議論されているが、9.4兆円の赤字をどのように削減するか、道筋はまだ見えてこない。9.4兆円のほとんどを歳出削減で生み出そうとする財務省側と、歳出削減を5~6兆円にとどめ残りは歳入拡大で対応しようとする民間議員側が対立している状況である。 以上のとおり、イギリスでは財政健全化が二大政党の合意事項であり、財政黒字への道筋も示されている一方、日本では財政健全化がどのように達成できるか、依然として不透明である。