イギリスの政治と日本の政治 財政健全化できるのは? 内山融・東大院教授
大平正芳の責任感
もちろんキャメロン政権の財政健全化も容易な道ではないだろう。今回、キャメロン首相は「ブルーカラー保守主義」(勤勉、向上心、責任といった価値観に立つ保守党こそが労働者層の利益を守ることができるとする考え方)として労働者層向けの路線を打ち出しているが、社会保障などの支出削減は労働者層の反発を招きかねない。 とはいえ、有権者に対してあえて「痛み」を伴う政策を提示する姿勢は見習うべきではないか。支出削減や増税などの痛みを伴う政策は、一般に選挙での受けがよくないが、将来世代への責任を考えれば必要なものである。イギリスの政党がそうした政策を有権者に訴えることができる理由としては、以前の記事(「イギリスの政治と日本の政治 何が違うのか」)で述べたとおり政党の求心力が高いこともあるが、二大政党とも財政健全化をマニフェストの最優先事項に掲げていることに示されるように、政治リーダーが財政への責任を共有していることも大きいといえよう。 日本でもかつて、大平正芳首相(在任1978年~1980年)がそうした責任感覚から一般消費税の導入を打ち出した。大平は総選挙で大敗し、一般消費税導入は頓挫したものの、今でも大平の態度を評価する人は多い。今の日本でも、そのような責任感あふれる政治家をもっと評価するようになってよいのではないだろうか。 ----------------- 内山 融(うちやま ゆう) 東京大学大学院総合文化研究科教授。専門は日本政治・比較政治。著書に、『小泉政権』(中公新書)、『現代日本の国家と市場』(東京大学出版会)など。