自動車メーカーから大学教授に 「事故のない自動運転」を追求
■名物教授@公立諏訪東京理科大学
「交通事故を減らす」という社会課題に、公立諏訪東京理科大学工学部機械電気工学科の國行浩史教授は取り組んでいます。自動車事故がなぜ起きるのかを解明し、対策を考え、さらに自動運転の事故についても研究を進めています。研究内容とその魅力を聞きました。 【写真】ドライビングシミュレーターが並ぶ研究室。自動車・バイク好きの学生が集まる
2023年の国内の交通事故による死者は2678人、死傷事故件数は約31万件でした。かつては年間1万5千人が交通事故で死亡していた時代もありましたが、横断歩道、信号機など交通インフラや交通ルールの定着、自動車の安全技術の向上などによって、この20年ほど減少傾向が続いてきました。しかし、23年は死者数が下げ止まり、増加に転じています。 國行教授は次のように話します。 「コロナの感染が収まり、社会活動が活発になったことが影響していると考えられます。自動車は生活に必須のものであり、運転する楽しみを与えてくれる重要な存在です。事故によるケガ、死亡、後遺症、加害などのリスクを最小にして、交通事故のない世界の実現を私は目指しています」 交通事故の要因は「人」「道・環境」「車」の3つの視点からアプローチすることが大事です。 「車」の安全対策には、「衝突安全」と「予防安全」の2つの考え方があります。「衝突安全」とは、シートベルト、エアバッグ、車体の衝撃吸収構造などの安全装備によって、車に乗っている人や歩行者の傷害を軽くする取り組みです。 それに対して「予防安全」とは、事故そのものを起こさないようにしたり、事故の被害を軽減したりする取り組みで、追突を防ぐ自動ブレーキや、車線からはみ出すと警告音が鳴る装置などが導入されています。 「自動車の安全対策はアメリカが主導してきました。日本では1994年に衝突安全性能を車に搭載することが法規化され、技術が進化して死者数が大きく減少しました。 しかし、衝突安全だけでは事故の減少に限界が見え始め、2015年頃からは予防安全が強化されて技術が進化しています。実際に自動ブレーキの普及で追突事故は減っています」 予防安全の次の段階として、期待が集まっているのが自動運転です。 「交通事故の9割は運転ミスのような人的要因で起きるといわれているので、自動化によって事故が大幅に低減することが期待できます。自動運転の技術は急速に向上していますが、私が懸念しているのは、開発時に想定していなかった事故が起きることです。どのような条件で事故が起きるのかを発見し、未然に防ぐ取り組みは、今後ますます重要な研究テーマになると思います」 自動運転に関して、海外では、夜間に自転車を押しながら歩いていた歩行者や、巨大な白いトレーラーが自動運転車に検知されずに事故につながった例があり、前方や周囲の状況をリアルタイムに正しく検知することが課題の一つになっています。