不動産業界で横行する「不誠実な商習慣」に国がメス、それでも解決には程遠いワケ
● 不透明な売却プロセスの慣習が 売り主の不利益につながっている 皆さんは、不動産業界において長きにわたって慣習化していた「囲い込み」という言葉をご存じだろうか。例えば、あなたが売り主として「家を売却したい」と考え、不動産会社に仲介を依頼したとする。当然、売り主である自分に利があるように売却活動を進めてくれるはず、と思うだろう。 【この記事の画像を見る】 ところが実際は、必ずしもそうはならない。他の不動産会社から紹介された買い主への物件紹介を「故意」に断ったり、他の不動産会社に物件情報を提供しなかったりと、「情報の独占」、つまり、物件の囲い込みが行われているのである。 ダイレクトに紹介を断る行為はもちろんのこと、買い主側の不動産会社からの問い合わせに対して「鍵の受け渡しの時間が取れない」「内見のスケジューリングが難しい」などの一見もっともらしい理由をつけ、購入意欲をそぐような形で「囲い込み」を行う悪質な不動産会社も存在する。近年、その手法はより複雑かつ巧妙になってきている。
このような「囲い込み」は、売り主に大きな不利益をもたらす可能性が高い。不動産会社が意図的に物件情報を制限することで、本来であれば購入に興味を持つ可能性のある買い主候補に情報が届かなくなってしまい、成約までに要する期間も長くなる可能性がある。また、自社顧客への紹介が優先されるため、利益が相反する売り主と買い主の双方を担当する状態になり、売り主にとって不利な価格交渉に応じなければならないケースも想定される。つまり「囲い込み」によって、成約価格の低下につながるリスクも高くなるだろう。 不動産会社が情報を囲い込むことで、売り主は売却活動の進捗状況を正確に把握することも困難となる。どの程度の問い合わせがあるのか、他にどのような購入希望者がいるのか、といった正確な情報収集ができないため、売り主は不利な立場に置かれ、結果的には不動産会社の言いなりで取引を進めざるを得なくなるケースも少なくない。 昨今、不動産価格の高騰や在庫物件の減少などにより、不動産会社間の顧客獲得競争は激しさを増している。暗黙の了解として黙認されてきた「囲い込み」の問題点が、より明確に浮き彫りになってきているのだ。 ● 売る側と買う側双方から手数料を得る 「両手取引」の問題点とは そんな折、ついに国土交通省(国交省)が「囲い込み」対策へと舵を切った。2024年6月末、宅建業法施行規則(省令)を改正。2025年1月以降、不動産取引における物件情報共有システム「レインズ(REINS)」において、取引状況の登録内容に虚偽などが確認された宅建業者は是正指示や業務停止処分などの対象となることを公表した。 不動産の売買プロセスにおける囲い込みを抑止するという意味では意義のある規制であり、問題の解決に向けた第一歩として、非常に意義深いものと言えるだろう。 では今回の規制により、「囲い込み」は業界からなくなっていくのだろうか。残念ながら、今回の規制を契機に囲い込みが完全になくなるとは言い切れない。 そもそも、なぜ「囲い込み」が行われ、常態化してきたのだろうか。 不動産会社の収益は、主に取引が成立した際の手数料収入によるものだ。不動産会社の多くは成果主義の報酬体系を採用しているため、1件あたりで得られる手数料が多ければ多いほど、担当者の報酬も増えるシステムとなっている。売り主・買い主双方から手数料が得られる「両手取引」なら、当然収益も2倍となる。こうした点を踏まえると、より多くの手数料が得られる「両手取引」を目的にした「囲い込み」が慣習化し、黙認されてきたのもある意味自然な流れと言える。 しかし、本質的な部分に目を向けると、売り主と買い主の意向は必ずしも一致しないはずだ。売り主はできる限り高値での売却を目指すことが一般的だが、買い主は逆のできる限り安く買おうとする。つまり、不動産取引においては、売り主・買い主間の利害は一致しないことが多い。 さらに、仲介手数料の上限額は、物件価格によって異なる。例えば東京都のように不動産価格の高い地域とそれ以外の地域では、得られる金額に大きな差が生じてしまうのだ。高額物件の多い東京の場合、1件の取引で得られる仲介手数料はそれなりに高額となる。一方、需要と供給のバランスが悪く、不動産価格が下落しているエリアでは、仲介手数料の額も少なく、片手取引だけでは十分な収益を確保できないことになる。売り主・買い主双方から手数料を得る「両手取引」でなければ、ビジネスそのものが成り立たないというケースもあるという。 地方の現状を鑑みると、ただ「囲い込み」をなくせばいいわけではなく、仲介手数料の上限に関しても議論を尽くす必要がある。片手取引でもビジネスを継続できるようにならなければ、「囲い込み」の解消には至らないためだ。