風呂がめんどうで「風呂キャンセル」 でも、本当は入りたいあなたへ
「風呂キャンセル」という言葉が、SNSではやっているようですね。本当は夜寝る前に入浴したいと思いながらも、結局入ることができないまま寝てしまうという一連の習慣を指すようです。 今回はこの「本当は入りたいのに、入れない」ことで疲労がとれにくかったり、衛生面で満足できなかったりする風呂キャンセルに関するお悩みについて、分析と対策をお伝えします。 ADHDの主婦リョウさん(仮名、40代女性)もまた、風呂キャンセルしがちなひとりです。 リョウ「風呂に入ってしまえば気持ちいいのはわかってんだけど、もう帰宅した時点で電池切れなんだよね」 リョウさんは仕事から帰ると本当なら玄関で倒れ込みたいぐらい、ぐったりなのです。 それでもなんとかスーパーの買い物袋を、キッチンにどすんと置いて、冷蔵庫にしまって、なんとかパワーをつなごうと甘いお菓子を口に放り込んで、「よいこらしょ」とソファに腰を下ろします。 ■娘に言われ、しぶしぶ台所へ ちょっと休憩と思いながらスマホをいじると、お菓子が止まらなくなって、家族で食べようと思っていたファミリー用のビスケットが気づいたら全部なくなってしまいました。 この時点で帰宅して1時間経過。 リョウ「いいかげん夕食作らなくちゃ」 そう思いながらも、たいしておもしろいわけでもないSNSをひととおりはしごして、興味のない動画を見ながら、無表情で過ごします。 娘に夕食はまだか、おなかすいたと言われて初めて、渋々立ち上がります。 キッチンまできたものの、なんの献立も思いつかず。 リョウ「冷凍うどんにしよっか。具がないけど……。それでも鍋とか洗うの面倒なんだけどね。全然手抜きじゃないわ」 ぶつぶつ言いながら、2人分のうどんを作って食べます。 リョウ「旦那のは帰ってきてからまた考えればいいか」 麺類って、こういう帰宅時間の異なる家族のご飯としては、やっかいですよね。 ■疲れてうたた寝、気づけば夜の11時 そんなもやもやを抱えながら、食べ終えるとすぐにソファに移動してまたスマホを触ります。今度は眠気も出てきました。 リョウ「そういえば、来週の小学校の保護者懇談会って何時から何時だったかな。仕事休まないと」 立ち上がって、プリント置き場に行けばわかるのですが、それがどうしてもどうしてもできないリョウさんなのです。この、一歩も動けない、動きたくないモードになると、リョウさんはなんにもできなくなります。立ち上がればすぐわかる懇談会の時間すら、 リョウ「えっと、学校からのメール見たらわかるかな」 とスマホで探し始めます。もう一歩も動きたくないリョウさん、入浴なんてしたくないに決まっています。メイクも落とさないまま、コンタクトも外さないまま、「ああーやり残しだらけ」と思いながら、今日もソファでうたた寝です。 次に目が覚めるのはだいたい午後11時。娘はまだ起きてゲームをしているし、夫はまだ帰宅しないし、食卓にはまだ食べっぱなしのうどんのお椀(わん)があるし。 ひとまず電気を消して、娘を寝かせて、風呂はあきらめて布団へいくリョウさんです。メイクしたままなので、寝具にメイクがつくかも……と変に気になって、寝返りだってのびのびうてません。こんなかんじなので、翌朝の気分は最悪です。 リョウ「ああ、もう朝? ちっとも寝てない気がする。起きて風呂に入らないと……。余計に面倒だ」 さてさて、こんな風呂キャンセル続きのリョウさんは、一体どうしたらぐっすり眠れて、いい朝を迎えられるのでしょうか。 ■お風呂のどの工程が最も「嫌」か 「風呂キャンセル界隈(かいわい)」のみなさまに共通する特徴は、「風呂」へのハードルが高いところです。 「入浴したからには、体の隅々まで洗いたい」 「シャワーじゃなくて湯船で半身浴したい」 「きちんとタオルですべての水気を拭き取りたい」 「スキンケアはぬかりなくやりたい」 などです。 このハードルの高さが、よっこいしょと重い腰をあげにくくさせているのです。 風呂キャンセルモードになった時のみなさまは、お風呂のどの工程が最も「嫌」ですか? 入るのが嫌などと全体的にいうのではなくて、イラストのどこのプロセスが嫌かを具体的に考えるのです。自分が普段風呂に入るところをまるでビデオに撮ったかのように、コマ送りにして、「ここは嫌かな?」「ここかな?」と慎重に見ていってください。 リョウさんの場合は、風呂の「ドライヤーで髪を乾かす」が最も嫌ポイントでした。 ドライヤー中は両手が使えないし、熱いし、湿度が高くて不快。かつ、ドライヤーの時間には何にもできなくて退屈だからです。 リョウさんのように風呂のプロセスの「嫌」ポイントが判明したら、その嫌ポイントに対処しましょう。精神論ではなく、モノの配置やサービス、機械を用いることが大切です。夜の自分のやる気だけは信用してはならないのです。 ■「嫌」ポイントへの対処は具体的に リョウさんは、両手が塞がらず低い温度かつ大風量のスタンド式ドライヤーを購入しました。それを居間の涼しいところに置いておけば、ゆったり快適にスマホをいじりながら髪が乾くのです。頑張って風呂に入ったら、ゆったりと腰掛けてドライヤーに低温で乾かしてもらいながら、日中チェックできなかったSNSや返事をしてなかったメールの処理ができるのです。 リョウ「今まで誰にも髪乾かすのが嫌なんて言ったことなかったし、そんなに意識もしてなかったけど、やっと風呂キャンセルの正体がわかった」 これ以降、リョウさんはちょっとだけ風呂へのハードルが下がりました。 でも完全に風呂キャンセルがなくなったわけではありません。 このお話は次回も続きます。
朝日新聞社