92歳のバラ名人が抱く夢 「雨ニモマケズ」の名前に込めた思い 紅茶のような新品種の香り
「イーハトヴは一つの地名である」「ドリームランドとしての日本岩手県である」。詩人・宮沢賢治が愛し、独自の信仰や北方文化、民俗芸能が根強く残る岩手の日常を、朝日新聞の三浦英之記者が描きます。 【画像】「雨ニモマケズ・ノースアイボリー」はこちら
金賞のバラ「雨ニモマケズ・ノースアイボリー」
宮沢賢治の故郷・岩手県花巻市に「名人」と呼ばれるバラの育種家がいる。 吉池貞蔵さん(92)。 著名なバラの国際大会「第17回国際香りのばら新品種コンクール」で昨年末、見事、金賞を獲得した。 受賞したバラの名前は「雨ニモマケズ・ノースアイボリー」。 審査では「香りはティー系。華やかなダージリンティーの香りに爽やかなレモンとバイオレットの花を遭わせた香り」と評された。 同大会は「香り」に重点を置いた世界的にも珍しいコンクールだ。 応募された苗は、公園内の試作場に植えられ、その後2年間、同じ条件で育てられ、審査される。 「厳密な審査のなかで、『ああ、良い香りだな』と実感してもらえたことがうれしい」と吉池さんは顔をほころばせる。
戦後すぐ、野バラ3千株を販売
長野県出身。 通っていた農学校で農家の見学に行った際、田んぼに露地で栽培されていたカーネーションやテッポウユリの美しさに心を奪われた。 「花の栽培を勉強したい」と千葉大に進学。東京のアルバイト先でバラと出合った。 「まだ戦後まもない時期で、東京・三越の向かいでは、地べたで園芸品の直売をしていた。 園芸業者と仲良くなり、長野県出身だと言ったら、『長野には野バラがあるだろう』と」 長野に帰って野バラの株を掘り、東京で売ると1株2円50銭から3円で売れた。 販売した野バラは全部で3千株ほど。 「食糧難の時代でも、人は花に心の潤いを求めていたんです」
定年退職後、バラ栽培に本腰
その後、岩手県内の農業学校や園芸試験場に勤務してからも、自宅の庭にはバラを植え、「勤めから帰った後に、懐中電灯でこっそりバラの様子を確かめる日々」を長く続けた。 定年退職後にバラの栽培に本腰を入れ、いくつもの国際コンクールで金賞を受賞。 花巻市の自宅前の「ほ場」には現在、数百種・数千株以上のバラが咲き誇る。