なぜ知名度ゼロの「ハイセンス」が国内シェア3位に食い込んだか…躍進を支えた意外な家電量販店の名前
■数年で帰国したい人は日本市場で認められない 日本以外の国だと、お客様はパッと見たときのデザインの良さで商品を選ぶ傾向があります。一方、日本のお客様は性能・品質を重視します。例えばテレビの場合は、日本の電機メーカーは画質に自信を持ってテレビCMでもそれを繰り返し強調します。それに慣れている日本の消費者は画質の知識が豊富で、「中国のテレビは赤っぽい」「視野角が狭い」とプロ顔負けの視点で画質を評価する。お客様に満足いただける画質を実現するのは、容易ではありませんでした。 転機になったのは、18年の東芝映像ソリューション(現TVSレグザ)の買収です。当時会長の周が、赤字に陥っていた同社の傘下入りを決断。TVSレグザ社長も兼任した私は赤字企業再生という重責を担うことになりましたが、これでハイセンスの商品力が高まることを確信しました。実際、TVSレグザと開発や生産を共同で行うようになり、画質は大幅に向上しました。 まず反応があったのは各店のバイヤーで、仕入れが大幅に拡大しました。お客様がハイセンスを見る目も変わりました。お客様とはオンラインの直販で接点がありますが、高評価が続々と集まり始めました。20年には、消費者の声を集めた価格.comのプロダクトアワードの映像部門で初めて大賞を受賞。21年はTVSレグザ、22~23年はふたたびハイセンスが2年連続で大賞を獲りました。約10年で、日本で品質を認められる存在になれたのです。 もっとも、シェアを伸ばせた理由は品質向上だけではありません。 これまで多くの海外メーカーが日本市場への参入を試み、今の私と同じ立場の方々が日本に赴任してきました。しかし、多くは短い期間で実績が出なければ解任されたり、自身の家庭などの事情で数年で帰国してしまう。赴任者にとって日本は通過点の一つであり、腰を据えて取り組んできませんでした。 2~3年で成功できるほど、日本市場は甘くありません。会社も人も、長期戦に取り組む覚悟があってはじめて存在を認められるのです。 その点、ハイセンスは日本進出を長期で考えていました。私は来日時、夫と2歳の娘を残してきましたが、5歳のときに娘を日本に呼んで暮らし始めました。そのまま日本に骨を埋める覚悟だったからです。 私だけではありません。中国からの出向者について、本社には「2~3年で中国に帰るつもりの人はいらない」と伝えています。実際、赴任してきた社員に腰掛けのつもりの人はいない。多くの中国人社員が社内の日本語講座に参加して、一生懸命日本での暮らしに溶け込もうとしています。