『資産運用立国実現プラン』は岸田政権が残した成果:金融所得課税強化は慎重な議論を
資産運用業とアセットオーナーシップの改革
政府は、個人の金融資産と企業との間の投資資金の流れ(インベストメントチェーン)全体を改革する意欲的な取り組みを進めた。「資産運用立国実現プラン」には、その残されたピースとして家計金融資産等の運用を担う資産運用業とアセットオーナーシップの改革が加えられた。1)資産運用業の改革、2)アセットオーナーシップの改革、3)成長資金の供給と運用対象の多様化、4)スチュワードシップ活動の実質化、5)対外情報発信・コミュニケーションの強化の5つがその柱とされた。 資産運用業の改革では、資産運用業の運用力の向上などが図られる。そのため、専門性の向上、運用人材の育成・確保等を通じた運用力向上やガバナンス改善・体制強化のためのプランの策定・公表を、大手金融機関グループに要請する。 さらに、資産運用業への海外機関あるいは新興企業の新規参入を促し、競争を促進することで運用力向上や顧客の利便性向上も目指したのである。その一環として、金融・資産特区の創設も打ち出した(コラム「金融・資産運用特区がスタート:成長戦略との連携も重要」、2024年6月6日)。
日本経済の潜在力強化が鍵に
このように、岸田政権の「資産運用立国実現プラン」は、意欲的な取り組みとなった。 岸田政権は、個人が投資を拡大し、それが、企業が成長するための投資に回され、それを通じた企業の成長の果実を、個人が配当や株価上昇という形で得る。さらにその資産所得増加分を消費に回すことで企業の成長が促される、といった「成長と分配の好循環」の実現を目指した。 新NISAの開始、物価上昇観測の高まり、年初来の株価上昇などを受けて、足もとで、個人は株式投資を従来よりも積極化したように見える。しかし、日本銀行の追加利上げによる預金金利の上昇、足もとでの株式市場の調整が、個人の株式投資を慎重にさせる可能性もある。 このような短期的な経済・金融環境の変化に左右されずに、個人が投資を持続的に拡大させていくためには、日本経済の成長力向上への期待を高める必要がある。金融商品への投資の期待収益は、経済の成長力、潜在力によって基本的には決まると考えられるからだ。経済の成長力、潜在力が高まり、投資の期待収益が高まれば、個人のリスク選好も高まり、株式投資が促されるだろう。 こうした観点から、個人の投資拡大を起点とする「成長と分配の好循環」の実現には、少子化対策、インバウンド戦略、DX・GX戦略、地方経済活性化、外国人人材活用などといった、経済の成長力を向上させる成長戦略の推進と一体で進めていくことが重要になるだろう。成長戦略の推進と資産運用立国実現プランは、新政権の下でも強力に進めていくことが期待されるところだ。