8・21ゲリラ豪雨で地下駅浸水ショック「次は地下連結する商業施設ごと駅が沈む」
「イヤホンで音楽を聴いていたのですが、水が流れる音が聞こえてきて。振り返ったら地上から駅に水が滝のように流れ込んでいたんです」 駅構内で雨水が浸水する現場に居合わせた30代の男性はこう振り返った。 8月21日19時、気象庁は東京都港区付近で1時間に約100ミリの雨を観測したとして、記録的短時間大雨情報を出した。東京都心では、都営地下鉄国立競技場駅、東京メトロの市ヶ谷駅、麻布十番駅の構内に大量の雨水が流れ込み、浸水した。 「地下鉄は地震対策もいろいろやっていますが、いちばん怖くて手強い敵は水なんです。地下空間にとっては対処が難しい天敵です」と話すのは、東京メトロ元社員で鉄道ライターの枝久保達也氏だ。今回の市ヶ谷駅の浸水について解説してもらった。 「市ヶ谷駅の場合、出入り口に浸水を防ぐための『止水板』を設置しようとしたところ、止水板を格納している箱の扉が水圧で開かず、取り出せなかったようです。その後、水がどんどん入ってきたので営業終了後に閉めるシャッターを下ろしたところ、水圧で破損してしまった。なんとか食い止めようと土嚢を積んだようですが、浸水を止められなかったようです」(枝久保氏、以下同) 地下鉄駅の階段や通路幅は決められた基準に沿って設計されており、今回浸水した3駅の構造がほかの駅と違っていたわけではない。ではなぜ、今回、この3駅が浸水してしまったのか。 「地形が大きく影響しています。基本的に3駅ともいわゆる山の手側ですが、川筋の地形なんですね。地形の断面図を調べると、3駅ともまわりより一段低くなっているので、その一帯に周辺の水が集まりやすくなる。たとえ標高が高い場所でも、局地的に見れば一気に水が集まる場所になるんです」 麻布十番駅は、2004年10月にも、台風22号による集中豪雨で近くを流れる古川が氾濫して、雨水が駅構内に流入している。 「止水対策をしていても周辺よりも低い場所にある、近くに川がある駅は、今回のような1時間に100ミリという猛烈な豪雨が襲った場合は、浸水する危険性があると思います。これは東京に限らず、淀川がある大阪の地下鉄駅でも同じことが言えるでしょう。 今回は短時間でしたが記録的な大雨が長時間に渡って降り、河川が氾濫した場合、多数の地下鉄駅が水没する可能性があります」 2009年に、政府の中央防災会議が公表した浸水シミュレーションがある。荒川の堤防が決壊した場合、地下鉄ほか17路線の97駅が浸水する可能性があるという。 「東京メトロではここ10年ほどで、荒川の決壊による大規模水害に対応できるような止水対策も進んでいます。上野駅よりも東側にある路線の海抜の低いエリアでは、駅の出入口に防水扉を設置して、完全に密閉できるような構造に作り替えています。また、トンネル内には、一定以上の雨が降ると自動的に閉まる浸水防止機が導入され、丸ノ内線の御茶ノ水駅付近では、神田川の水がトンネルに流れ込むのを防ぐために重い鉄製の防水ゲートが設置されています」 河川の氾濫への対策は進んだが、枝久保氏には危惧していることがあるという。それは「地下鉄と直結の商業ビルが増えている」ことだ。 「最近は地下で直接繋がっている商業ビルなどが多く、東京メトロが管理していなければ勝手な判断はできません。そうなると、都心まで溢れた水が流れ込んで地下鉄が機能しなくなり、商業ビルの地下も水没するかもしれません」 今年はゲリラ豪雨が頻発、台風もの本格的シーズンもこれからだ。浸水の危険性に注意が必要だ。