「俺は元の数字が見たいんだ」いきなり本質をつかむ、イーロン・マスク流の問題解決法とは?
宇宙開発企業スペースXとEVメーカーテスラを率いる起業家、イーロン・マスク氏。ツイッター買収によって新たな注目を集める中、その大胆な経営手腕を目の当たりにした日本人がいる。元ツイッタージャパン社長の笹本裕氏だ。新たなトップは笹本氏に何を求め、組織をどう変容させたのか。本連載では、『イーロン・ショック 元Twitterジャパン社長が見た「破壊と創造」の215日』(笹本裕著/文藝春秋)から、内容の一部を抜粋・再編集。知られざるエピソードとともに、希代のイノベーターによる組織マネジメントの一端に迫る。 第1回は、トップダウンのイメージとは異なる、マスク氏流の問題解決プロセスを紹介する。 ■ ストーリーテリングの力 彼は一人語りこそしませんが、そのストーリーテリングの力には強力なものがあります。よくも悪くもイーロンの発言は、シンプルで、無邪気で、誰でもわかるようなものになっています。「ロケットを飛ばして火星に行くぞ」とか「化石燃料を使わずにクリーンな車を作るよ」「速くてかっこいい車を作るよ」というように、ものすごくわかりやすい。だから誰しもが与しやすい。これはストーリーテリングの力です。 彼のストーリーテリングは、プレゼン形式ではなく、ディスカッションベースで行われます。彼のビジネスやプロダクトに関わる人は、彼のストーリーテリングを理解し、継承することで、彼とディスカッションできるようになります。 コツは、単純に定性的なストーリーだけでなく、定量的な部分と組み合わせて話すこと。定性的な話だけを長々と喋ってしまうと「で、結論は何なの?」と言われてしまいます。逆に、数字だけの話になってしまうと「それって何を意味するんだっけ?」となる。彼とストーリーを紡いでいくには、定性と定量を組み合わせ、かつ、簡潔に伝えないと相手にはしてもらえません。 ■ イーロン流問題解決法 イーロンは情緒的で定性的な話もしますが、一方で非常にロジカルで数字に対してもすごく敏感です。どちらもあるのは、彼の強みです。 驚いたことがありました。 Twitter社が買収されて、1週間も経っていないときのこと。収益事業の責任者4~5人だけの最初のミーティングがありました。そこでイーロンはデータをパッと見て「日本の利用数ってすごいね。でも、売り上げはまだまだだね」と言ったのです。 Twitterの日本での売り上げは世界で2番目です。だから私としては「そこそこの売り上げは達成している」という自負はありました。ただ人口比で言うと、日本の利用者はアメリカの3倍です。それに対して、売り上げがアメリカの3倍あるかというと、そうはなっていなかった。そもそもアメリカの広告市場は日本の3倍くらいあるはずなので、アメリカの売り上げにはまだ匹敵していません。そこを一発で指摘されたのです。そして「その差が課題だね」と言ったのです。 就任から1週間足らず。しかもデューデリもせずに買収したのに、いきなり本質を突いてきた。彼は大量のデータをバーッと見て、大づかみで「ここが問題だ」と素早く判断できるのです。これはすごいなと思いました。