“大失態”でよぎった「引退」 誹謗中傷、眠れぬ夜に「野球が怖い」…断ったお立ち台で謝罪
お立ち台で咄嗟の“謝罪”…「もう名手なんて呼んでくれませんよね」
今季から、内野守備・走塁コーチを兼任していたことも、心に大きくのしかかっていた。国指定の難病、潰瘍性大腸炎を抱える安達のコンディション調整を考え、出場選手登録を抹消されても1軍に帯同することで体調管理ができ、選手生命を伸ばせるように球団や首脳陣が配慮してくれたポジション。実際にコーチとして指導する場面はほとんどなかったが、指導者としての立場も安達を苦しめた。「コーチ兼任が、というのも気にしました」と吐露する。 大きな失敗をして、気付いたこともある。ファンや周囲の温かい声だ。SNS上では心無い誹謗中傷もあったが、安達のこれまでのチームへの貢献を挙げる声が大部分を占めた。次戦の試合前にキャッチボールの相手をしてくれた中嶋聡監督の配慮も心に響いた。また、その後は失策の話題に触れないように接してくれるメディアの心遣いも感じたという。 快勝したヤクルト戦のヒーローインタビュー。お立ち台には茶野、西川、太田に並んで安達の姿もあった。開口一番、「まず始めに、ほっともっとでちょっといろいろやらかしてしまって、いっぱい応援してもらっている中で、やらかしてしまってすいませんでした。本当、一時期、野球が怖い時期もあったんですけど、なんとかこの場に立てて本当に気持ちいいです。よかったです」とファンに謝罪した。 スタンドから大きな拍手と歓声が上がったが「ヒーローインタビューも、断ったんです。(謝罪の言葉も)最初から考えていたんじゃないんです。マイクを向けられた瞬間、話していました」と明かす。その後は「もう名手なんて呼んでくれませんよね」と自嘲気味に語る。守備だけでなく、進塁打やヒットエンドラン、職人技の右打ち、四球を奪ってチャンスメークするなど、完璧なプレーをやってのけてきた。教訓も得た。 「この経験を生かして(失敗した選手に)いろいろ声を掛けられるということはあると思います」。二塁での守備機会がなかったため「まだ、怖い気持ちはあります」と明かした。22日の西武戦では堅実な守備を披露。首脳陣からもらった“ラストチャンス”を自らのバットで切り開いた安達に、もう怖いものはない。
北野正樹 / Masaki Kitano