今後は「挑んでみたいもの」から書きたい 湊かなえ
黒木)よく作家のなかで、「絶対に映像化できないものを書いてやろう」という方がいらっしゃるのですが、『人間標本』も「映像にできるのか、できないのか」という意味では際どいですよね? 湊)私も『告白』を書いたときに、「絶対に映像化できないものを書いてやろう」と思ったのですが、それでも……。 黒木)見事に映像になりましたね。 湊)すごいものを撮ってくださいました。監督やつくり手の方々は「できないぞ、難しいぞ」というようなものの方が、「挑んでやる」という……。 黒木)ハードルが高い方が。 湊)ご自分のアイデアを発揮してくださるのではないかな、と思いました。 黒木)もちろんミステリーだけではなく、親子の愛や他人を想う気持ちなど、「人はちょっとのことですれ違っていくのだ」と立ち止まっていろいろ考えさせられました。すごくドラマチックでしたね。 湊)「人間について掘り下げる」、「ミステリーとして面白い」という2つの要素をどのような配分で融合させるか、すごく考えたので、「最後に泣いた」と言っていただけたのが本当に嬉しかったです。 黒木)最後の2ページで泣いてしまいました。心が見えたのですよね。意外性に泣いたのではなく、その心に泣いてしまいました。もちろん前提には意外性もあるのですが。そのような心をこれからも書き続けていくのでしょうけれど、「こんなものを書いてみよう」という考えはあるのですか? 湊)いままでは、「これを書くにはまだ技術が追いついていないかな」とか、「周りに配慮しないといけないかな」という気持ちがありましたが、引退するまでに何冊書けるか考えてみると、書きたいもの、挑んでみたいものから書こうと思っています。
湊かなえ(みなと・かなえ)/小説家 ■1973(昭和48)年、広島県生まれ。 ■2007(平成19)年、「聖職者」で小説推理新人賞を受賞。 ■2008年、「聖職者」を収録した『告白』が「週刊文春ミステリーベスト10」で国内部門第1位に選出され、2009年には本屋大賞を受賞した。 ■2012年「望郷、海の星」で日本推理作家協会賞短編部門、2016年『ユートピア』で山本周五郎賞を受賞。2018年『贖罪』がエドガー賞ベスト・ペーパーバック・オリジナル部門の候補となる。 ■その他の著書に『Nのために』『母性』『高校入試』『絶唱』『リバース』『未来』『ブロードキャスト』『落日』『カケラ』『ドキュメント』『残照の頂』など。 ■2023年12月13日、KADOKAWAから15周年記念書下ろし作品『人間標本』が出版。