社説:新幹線の京都縦断 密室協議やめ抜本見直しを
京都の北から南へトンネルを通し、福井県と大阪府を結ぶ北陸新幹線の延伸計画を巡り、与党が来年度の着工を断念した。 最大5兆円を超え、およそ30年に及ぶという長大な工事の概要が分かるにつれ、府民の間に疑念が高まっている。 無理押しすれば、京都の暮らしや地場産業、自然環境を脅かし、長く深刻な混乱を招きかねない。路線決定の持ち越しは当然だ。 ここに至るまで大半の議論を少数の与党議員の密室で進め、国土交通省は府民に説明しようともしない。京都市内のどこを通ればよい、といった次元の話ではないのではないか。 本紙は社説で繰り返し再考を求めてきた。必要性も含め、抜本的に見直すべき時である。 1973年に計画を決定した北陸新幹線は今春、福井の敦賀まで開業。残す路線は与党が8年前、米原案などを退け、福井県小浜―京都駅―京田辺市松井山手―新大阪駅とした。 140キロに及ぶ区間は約8割がトンネルで、京都市内は大半が地下40メートル超の「大深度地下」を通す。西脇隆俊京都府知事と松井孝治京都市長が先日、与党の聞き取りに、府市民の懸念に沿い、歩調を合わせて問題点を訴えたことは評価できる。 トンネル工事に伴う京都盆地の地下水への影響▽巨費に及ぶ法定の自治体負担(JR貸付料を除く費用の3分の1)▽大量に発生する建設残土(約3割はヒ素などを含む)の処分地▽工事車両の長期往来に伴う京都市の渋滞深刻化、京都丹波国定公園の環境影響―などである。 人口が急減する中、高度経済成長期の計画に固執する無理も大きい。費用対効果の再算出は、低すぎて出せないのかとみえる。災害時の代替交通が、新幹線である必然性も乏しい。 国交省は「シールド工法で地下水に影響はない」というが、他の大深度地下工事の周辺では水枯れや陥没が起きている。元京都大総長の尾池和夫氏も本紙で指摘したが、京の地下水はつながっており、工事で水質や水流が変わる恐れは否めない。 地下水は生活はもとより、伝統産業や飲食店、旅館、酒造、寺院などに広く使われ、京都を育んできた生命線に等しい。そこに手を突っ込む重大さを、政府や与党は甘くみていないか。 そもそも京都市域には東海道新幹線がすでに走り、府北部は縮小が続く交通網の維持こそ課題だ。国策だからとさらに新幹線を通し、厳しい自治体財政を圧迫することに広く府市民の理解が得られるとは思えない。 巨大事業の透明性が問われて久しい中、新幹線の路線決定の聖域化は許されない。少数与党のわずかな利害関係議員だけで決めるなど、「1強政治」の終わりを下した衆院選の民意を踏まえぬ時代錯誤ではないか。野党も参加を求めており、国会などで開かれた議論が必要だ。