シリーズ・総裁選~新政権 (1)“自民党が変わった” : 5度目の正直で石破新総裁誕生
高市氏の敗因は「親小泉票」の動向?
この方程式を現実のものにするには、若手議員の支持を集める小泉進次郎氏の決勝戦進出を阻むことが必要だ。高市陣営の一部は、インターネットを利用して小泉氏に否定的な書き込みを拡散する、一種の匿名ネガティブキャンペーンも展開した。小泉陣営もこれに気付いてポジティブ発信で防衛を試みたりした。結果として、策を弄したことが小泉支持で動いていた若手国会議員の多くを決勝戦で石破支持に向かわせることになったと言えそうだ。 小泉氏に関しては、あまりに軽々に「衆議院の早期解散」に言及したことが災いした。「これだけ総裁選で政策論争をやっているのだからすぐに選挙でもいいでしょう」という発言は、与野党で成り立つ国会というものに無頓着な一面を暴露した。一人よがりの「青さ」を印象付けるのに十分だった。 高市陣営の小泉追い落としの謀略があってもなくても、父・純一郎氏が公然と発言したように「まだ早い」ということだったのだろう。 石破氏は10月1日に召集される臨時国会で、新しい首相に選出される運びだ。自民党総裁選に先立つ9月23日、立憲民主党は新しい代表に野田佳彦元首相を選出した。「一度引退した元ヘビー級チャンピオンの現役復帰」といった表現もまんざら嘘(うそ)ではないだろう。 国民が期待しているのは重量級の政治リーダー同士の本格的な論戦だ。日本を取り巻く安全保障環境が悪化する中で、防衛費の増額はどこまで必要なのか。少子高齢化が急速に進む中で、年金・医療・介護・子育てという社会保障制度をどのような展望をもって持続可能なものにしていくのか。すべての土台になる日本経済の成長と、それを支える国民の所得向上をどういう構造改革で図っていくのか。積み残された政策論争のテーマは山ほどある。 「国民を守る」をキーワードにしてきた石破新首相の内閣が発足すると、能登半島の被災地の復旧・復興のための補正予算をどう扱うかが避けて通れない課題になる。そして自民党として、再度の政治資金規正法改正を巡る野党側との協議が「ルールを守る」の具体的な実践になる。 その先の衆議院の解散・総選挙。さらに来年夏の参議院選挙。心ある国民は「政党、政治家には将来を見据えた選択肢をはっきり示してもらいたい。そのうえで貴重な一票を投じたい」と考えていることを肝に銘じてもらいたい。
【Profile】
島田 敏男 政治ジャーナリスト、元NHK解説副委員長。1959年甲府市生まれ。中央大学法学部卒業。1981年、NHKに入局。政治部デスク、首相官邸キャップ、解説委員、名古屋放送局長などを歴任。2006年より12 年間にわたって「日曜討論」キャスターを務めた。24年3月にNHKを退職。現在、順天堂大学国際教養学部で非常勤講師として「政治ジャーナリズム論」を担当している。