日本メディアを手玉に取る中国軍、「連合利剣2024B」統合演習の虚と実
■ 4.中国軍演習報道を誇張する日本メディア 日本メディアの報道は、今回行った中国軍東部戦区の演習を、 (1)「大規模な軍事演習」 (2)「台湾を包囲する(取り囲む)形の軍事演習」 (3)「武力侵攻を意識したような上陸部隊もあった」 (4)「中国軍は演習区域を台湾本島に近づけている」などと伝えた。 この報道は、適切なのだろうか。 それぞれの表現には疑問が生じる。疑問に対する解説は、以下の通りである。 (1) 「大規模演習」:名称は連合や統合作戦という用語を用いていて、参加している軍種と兵器を見れば、確かにそう見える。 だが、本当に大規模なのかと言うと、参加軍用機は確かに多いが、参加艦艇数は多くはない。空母護衛艦艇も1~2隻である。とても大規模演習とは言えない。 (2) 「台湾を包囲する演習」:演習区域図を見ると、台湾を包囲するように見える。 だが、それは画像だけであって実際に行動した艦艇は少ない。よって、包囲するような実際の行動は行ってはいない。 (3) 「武力侵攻を意識したような上陸部隊もあった」:実際には、陸戦隊と揚陸艦による上陸演習はなかったと考えられる。 (4) 「中国軍は演習区域を台湾本島に近づけている」:現実には、意味がないことである。 なぜなら、台湾に近づけば、対艦弾道ミサイルで簡単に撃沈されるからだ。 ■ 5.中国軍の公表は情報戦の意味合いが強い (1)演習区域の図だけで「海上封鎖される」と意識させている。 演習区域の図は、中国が台湾の全周を包囲しているように見せたものである。 (2)海軍艦艇が演習区域にとどまることは、台湾軍に撃沈されるだけ。 これらの位置に中国海軍艦艇が遊弋することは、実際の戦争では不可能である。 演習区域は、台湾を封鎖するかのような、中国の意志を示しただけのものである。 (3)中国軍軍用機・艦艇の参加数では、台湾包囲や封鎖は100%不可能。 中国が、演習海域や軍用機、艦艇、特に空母の映像を見せて、台湾に対して強い姿勢で反発しているぞ、有事にはこのように封鎖するぞという脅しを行ったものである。 (4)過去の映像各種情報にごまかされている。 今回は、揚陸艦の動きによる上陸演習はなかったようだ。日本メディアは、SNSなどに中国軍が流した過去の映像を流すことがよくある。 (5)中国軍の情報戦は、中国国内にも向けられる。 中国軍は、台湾を威嚇するだけではなく、中国国内の党有力者や国民に対して、命令・指示に従って、「命令があれば、いつでも実行できる」ということをアピールしている。 ■ 6.脅威が高まったように情報操作する中国 中国軍事力の飛躍的増強が根底にあるために、その軍が動けば、また連合や統合という言葉が使用されると、メディアも日本国民も、実際のもの以上に、膨らんだ脅威を感じさせられているのではないかと思う。 中国軍は、演習海域を図で示すことによって、「台湾は中国の一部である。だから、台湾が現状を超えて独立に向かえば、その時にはこのように包囲し封鎖する行動に出ます」という意思を示しているのである。 現在の演習を客観的に見るならば、今回実施した中国軍演習は、将来実施しようとしている準備、それも下準備段階であるといってよいだろう。
西村 金一