このドラマは何年も語り継がれることになる…『海に眠るダイヤモンド』が期待を大きく超えてきたワケ。第1話考察レビュー
若者の青春ストーリーも見どころ
もうひとつ『海に眠るダイヤモンド』が示すのは、いづみの記憶の中に眠る端島での日々だ。玲央を長崎の中華街に連れて行ったとき、「このちゃんぽんはね、野菜に、豚肉、海鮮、いろんな材料が入った文化のごった煮。長崎そのもの」と語っていたいづみ。そんなちゃんぽんのように、本作にはいろんな要素が含まれており、そのうちの1つが鉄平を中心とした若者の青春ストーリーになっている。 鉄平には3人の幼馴染みがいて、鷹羽鉱業の幹部職員・辰雄(沢村一樹)の息子である賢将(清水尋也)と、同じく鷹羽鉱業で父が働く百合子(土屋太鳳)とは同じ大学に進んだ。そんな彼らの、特に鉄平の帰りを心待ちにしていたのが、島の食堂で看板娘として働く朝子(杉咲花)だ。 朝子は鉄平に想いを寄せており、彼と百合子の仲の良さを気にしている。そんな彼女を百合子はからかっていて、当初は2人がライバル関係に見えたが、のちに百合子は賢将と付き合っていることが明らかになった。 それが分かった途端、顔のニヤケが止まらない朝子。けれど、「俺が好きになった子は賢将が攫ってっちゃうんだよな」という鉄平の言葉で笑顔が消える。百合子と賢将もラブラブというわけではないようで、4人の関係は思っている以上に複雑なようだ。
いづみの正体は、3人のヒロインの誰か?
それをさらに掻き乱すことになるのが、端島に突如降り立った謎多き美女・リナ(池田エライザ)。何らかの事情で元いた福岡を離れ、端島にやってきた彼女は職員クラブで女給として働き出すが、坪倉演じる三島に体を触られて咄嗟に水をぶっかけたことであっという間にクビになってしまう。だが、鉄平が元歌手だというリナにみんなの前で島に伝わる端島音頭を歌わせたことで受け入れられ、端島に留まることになった。 出会ったばかりだが、鉄平はどこか影のあるリナを気にかけているようで朝子は悶々とした感情を抱く。幼なじみの関係はリナが現れたことで大きく変化していくのだろう。全体的に見れば、壮大なスケールの物語だが、実際に焦点があたるのは私たちと何ら変わりない市井の人々の日常だ。 誰もが仕事や恋愛、友情、家族など、さまざまなことに日々葛藤しながら過ごしている。それを贅沢にも神木隆之介、池田エライザ、清水尋也、土屋太鳳、杉咲花という、最高峰の俳優たちが約3ヶ月にわたって表現して見せてくれるのだからテンションが上がらずにはいられない。 そして最大の謎は現代で玲央の前に現れたいづみが一体何者なのか、ということだろう。冒頭では、「戻れないあの島、 今はもういない人々。 愛しい人の思い出はすべて、あの島へ置いてきた」といういづみのモノローグとともに、赤ちゃんを抱えたリナが船で端島を脱出する姿が描かれる。 またいづみが玲央に投げかけた「人生変えたくないか?ここから変えたくないか?」という台詞は、鉄平がリナに投げかけたものと同じであり、普通に考えればいづみ=リナだ。しかし、ラストではいづみが百合子あるいは朝子である可能性も示唆される。 今や無人島となり、廃墟と化している端島。そこで暮らしていた鉄平たちはどうなったのか、そしてリナはなぜ逃げるように島を後にしたのか。そのラストを見届けた未来の私たちはきっとハンカチを握りしめているに違いない。 【著者プロフィール:苫とり子】 1995年、岡山県生まれ。東京在住。演劇経験を活かし、エンタメライターとしてReal Sound、WEBザテレビジョン、シネマズプラス等にコラムやインタビュー記事を寄稿している。
苫とり子