このドラマは何年も語り継がれることになる…『海に眠るダイヤモンド』が期待を大きく超えてきたワケ。第1話考察レビュー
炭鉱夫という命懸けの仕事への誇り
島外の大学を卒業し、生まれ育った端島に帰ってきた鉄平。端島は島民の8割が炭鉱夫とその家族で、彼の父・一平(國村隼)や兄の進平(斎藤工)も炭鉱夫だった。彼らは海の底よりも地下深くの坑道に1時間かけて辿りつき、気温35度、湿度80%超えという近年の真夏の外と同じくらい茹だるような暑さの中で働く。そして汗とすすまみれになりながら掘り出すのは、かつて黒いダイヤモンドと呼ばれた石炭だ。 石炭は当時、主要なエネルギー源で日本の近代化や戦後復興を支えていた。なおかつ鉄平は、一平が石炭の粉塵で肺をやられてもなお必死に働いて稼いだお金で大学まで行かせてもらったのだ。 にもかかわらず、炭鉱夫は職業差別に遭い、鉄平も端島の出身というだけで島外の人に顔をしかめられることがあった。おそらく一平が無理をしてでも鉄平を大学に行かせたのは、そういう現実を知っていたからだろう。 自分とは違い、命の危険に晒されることも差別されることもない職業に就いてほしかったのかもしれない。だが、鉄平は島の炭鉱業を取り仕切る鷹羽鉱業の職員になることを選んだ。そこには炭鉱島である故郷への誇り、父親たちは尊い仕事をしているんだという矜恃があり、それが『海に眠るダイヤモンド』というタイトルにもあらわれている。
『アンナチュラル』との符合
特定の仕事に就いているだけで差別に遭ったり、命を軽んじられたりすることは何も過去の遺物ではない。現代だってそう。脚本家の野木亜紀子は常に便利な社会を支えているにもかかわらず、透明化されている人々に目を向けてきた。 印象的だったのは、「父ちゃんも兄ちゃんも毎日真っ黒になって炭を掘ってる。海の、海の底より下の、地底の底の底で。だけど、それは誰かに踏みつけられるためじゃない」という鉄平の台詞。 それを聞いて思い出さずにいられなかったのは、「誰がために働く」というサブタイトルがつけられた『アンナチュラル』第4話だ。同回では我が家・坪倉由幸が演じる製菓工場の従業員が上の人間に不当な扱いを受け、過労の末にバイク事故で命を落とす。その坪倉が本作で、「たかが端島」と見下す鷹羽鉱業の取引先社長を演じている点に作為的なものを感じた。 物流システムの過酷な労働環境をありありと映し出し、消費社会に警鐘を鳴らした『ラストマイル』然り。誰かの便利な暮らしを支えている彼らにもそれぞれの人生があり、大事な家族や友人、恋人がいる。踏みにじられていい人間など1人もいないんだということを野木のドラマは訴えかけてくる。