電動化時代にエンジン一本槍なのはナゼ? プロボックスには設定があるのにハイエースに「ハイブリッド」がない納得の理由
ハイエースには電動化の気配すらない
日本のビジネスシーンを支える商用バンの二大巨頭といえば、最速の営業車として知られるプロボックスと、建設現場などを支えるハイエースといったトヨタの2台が定番となっている。 【写真】商用車の鉄板車種「ハイエース」! 約60年前に誕生した初代ってどんな形? しかし、その商品企画や展開についてはずいぶんと違うようだ。プロボックスについては「ビジネス+HEV」というキャッチコピーでHEV(ハイブリッド)推しとなっているが、ハイエースについては、いまだに純エンジン車だけの設定であり、電動化の気配さえない。 いずれもビジネス向けのクルマでありながら電動化についての温度差が大きいのは、どんな理由が考えられるのだろうか。 まずいえることは、トヨタはユーザーニーズを汲み取ることに長けた自動車メーカーであり、ニーズを満たす製品作りにも定評があるということだ。 その意味で整理すると、プロボックスについては、中小から大企業まで幅広く営業車として使われるため、SDGs的な環境貢献という意味で電動化(HEV)のニーズがある。一方、ハイエースについては、とくに4ナンバー車は「ひとり親方」と呼ばれる自営業で使われることが多く、環境より車両価格を安くしてほしいというニーズが大きいといえる。 つまり、プロボックスにはHEVニーズがあり、ハイエースにはHEVニーズが小さいといえる。 もちろんプロボックスであっても、企業が多量に使うのだからコストを抑えるという要望も大きい。実際、プロボックスの価格をみると、ガソリンエンジンのエントリーグレードが152万9000円、ハイブリッドのエントリーグレードは182万8000円となっている。約30万円の価格差は小さいとはいえないが、企業ユースであれば許容範囲といえるだろう。
将来的には環境対応ハイエースが登場するかもしれない
このように、プロボックスにおいては適正な価格でHEV仕様を用意できるのは、パワートレインの基本構造が1.5リッターエンジンの横置きであり、設計的にカローラやヤリスといったHEVのメカニズムを移植しやすいこともある。 逆に、ハイエースのパワートレインはエンジン縦置きのFR(リヤ駆動)となっており、他モデルのHEVシステムを利用するのは難しいといえる。たしかにトヨタはレクサスやクラウンなどでエンジン縦置きHEVを設定しているが、コスト的にハイエースユーザーが許容できるとは考えづらい。 最新のランドクルーザーにも、海外向けには2.4リッターターボエンジンを使ったHEV仕様が用意されているが、やはりハイエースに使うにはコスト的に厳しそうだ。 とはいえ、「i-FORCE MAX」と名付けられた縦置きHEVは、北米ではタンドラなどピックアップトラックにも搭載されているタフなシステム。どこまでコストダウンできるか不明なところも多いが、ハイエースへの展開を期待したい。 なお、現行ハイエースのようなキャブオーバースタイルの4ナンバー車というのは、日本だけで求められている、ある種のガラパゴス的商品企画でもある。いつまでも日本向けに専用ボディを作り続けるのは難しいはずだ。 仮に、ノア/ヴォクシーなどミニバン系プラットフォームを活用したFFバンとして生まれ変わるとすれば、HEVを展開することは容易になるだろう。しかしながら、リヤ駆動を絶対条件として求めるユーザーの声が大きいであろう現状では、ハイエースのFF化が考えづらいのも事実。 ただし、国家戦略としてカーボンニュートラルを国際公約している日本において未来永劫、エンジン車を販売すると想定することは現実的ではない。どこかのタイミングで、ドラスティックな変革によってハイエースにHEVを追加する必要はあるだろう。 もっといえば一足飛びにBEV(電気自動車)になってしまう可能性もある。キャブオーバーというパッケージは床下スペースに余裕がある。ハイエースのスタイリングでBEVを作ると、かなりバッテリーを積むことができそうにも思える。価格はさておき、航続距離などの機能面では十分にニーズを満たす環境対応ハイエースが作れるかもしれない。
山本晋也