五輪で金を獲る人生と銀の人生。レスリング・文田健一郎が誓う「変わらなかった人生」への雪辱
オリンピックで獲得するメダルが金メダルか銀メダルか。その「一回の負けの差」はとても大きいと語る文田健一郎。東京五輪でレスリングの男子グレコローマンスタイル60kg級で銀メダルを手にした彼は、自身がそれを身をもって痛感したと話す。迎えたパリ五輪、目指すのはもちろん「自分がオリンピックで金を獲った人生」だ。 (文=布施鋼治、写真=YUTAKA/アフロスポーツ)
東京五輪の感想は「レスリング人気のない国でやる小さな…」
「本当にこれがオリンピックなのか!?」 いまから3年前、東京五輪での出来事だ。千葉・幕張メッセで開催された男子グレコローマンスタイル60kg級に出場した文田健一郎は、初めて足を踏み入れた大舞台に大きな違和感を覚えた。 「(闘っていて)コーチや対戦相手のセコンドの声がガンガン聞こえる。横のマットでの展開で(一方が投げられたときの)バーンという音もハッキリと聞こえてきた」 新型コロナウイルスの影響で、大会は直前になって無観客で開催されることになったため、場内は閑散としていた。いるはずの大観衆はいない。大会前、文田は気丈に振る舞っていたが、内心は「やはりショックだった」と振り返る。 「もうオリンピックといったら、満員の観客の中で大声援を浴びながら試合をして勝ち名乗りを受けるというのが醍醐味だと思っていたので」 文田は2016年のリオデジャネイロ五輪では現在はMMAファイターとして活躍中の太田忍の練習パートナーとして現地入りしており、その前のロンドン五輪も見聞を広めるため観客席で観戦している。4年に1度のスポーツの祭典の空気は二度にわたって肌で感じていたので、東京大会とのギャップを埋めることはできなかった。 「いいたとえなのか、悪いたとえなのかわからないけど、あまりレスリング人気のない国でやる小さな国際大会っぽいなと思いました」 だからといって闘うモチベーションが下がることはなかった。何しろレスリングを始めて以来、ずっと憧れてきた夢の舞台である。気持ちの揺れは皆無に等しかった。 「僕的には全日本選手権だろうと、世界選手権だろうと、気持ちが変わることはない。ただ会場に練習パートナーが入れなかったので、ウォームアップには苦労しましたね」