27時過ぎの磯丸水産での会話は失恋話が8割? 男がついつい思いがちな「もしもう一度、彼女とやり直せたら」
明けないで夜 #3
人気エッセイスト、燃え殻さんの『明けないで夜』には、眠れない夜に安心できるような、心落ち着くエッセイが収められている。 【画像】多くの男を惑わせる演技が話題となった水原希子さん 本記事では水原希子さんが出演した映画『奥田民生になりたいボーイと出会う男すべて狂わせるガール』に寄せた一編から一部抜粋・再構成して紹介する。
コミック雑誌なんていらない
「あれは「恋」だったのだろうか。3年付き合って、4回浮気された交際相手がいた。毎回別れるときは電話がかかってきて、「あのさ、好きな男ができたから、あなたとは別れたから」と過去形で伝えられた。 僕は完全に彼女の魅力に飲み込まれていたので、「ああ、そうなんだ。了解です」と抗う術もなく返し、毎回電話でフラれた。なにが「了解」だ。ビジネス電話か。そして毎回、半年くらいすると、彼女は新しい男に捨てられ、改めて電話がかかってくる。 「いまなにしてるの?」いつも一言目はそんな感じだった。 「いや、別に」ボクはそう電話で素っ気なさを演出しながら、もうちょっとでいい仲になりそうな女性の部屋にいて、ユニットバスに抜き足差し足、移動して、会話をつづけたこともあった。 「ね、今度、前に行った渋谷のレストラン行かない?」 彼女は電話口で呑気に言ってくる。そんなやり取りを、何度か繰り返すことで、これが彼女が戻ってくる合図なんだということを、バカな僕でも学習した。 彼女と一緒にいると、なにか盛られたんじゃないのか? と思われるほど、僕はずっと笑っていた。彼女は、笑いのツボ、驚くツボが人とはまったく違っていて、映画館でホラー映画を観ていたとき、見当違いの場面で「ギャー!」とひとりだけ叫んで、周りを驚かせたかと思うと、ものすごい陰惨なシーンで大爆笑したりする。 見ていてまったく飽きなかった。 「恋は病に似ている」と中島らもは言っていたが、症状としては、ワライダケに似ている気がする。そして、恋はワライダケ同様、最後は死に至ることさえある危険な病だ。 前言を撤回することになるが、いま改めて振り返ると、彼女は本当にそんなに面白かったのか? と疑問に思うことがある。でもそれこそが、恋という正体不明の病なのかもしれない。 美人で面白くてノリがいい子だから恋に落ちるわけじゃない。 恋という病にかかってしまったら、誰かから見たら平凡で普通なあの子が、美人で面白くてノリがいい子に見えてしまうのだ。