アウディを舐めたらアカン! ダカールラリーでの見事な勝利は、F1挑戦にも大きな意味を持つ?
アウディのモータースポーツ部門は、大きな批判に晒されている。2026年からのF1参戦に全力を注ぐため、すべてのスポーツカー・レースプログラムを廃止するという決定は、アウディの最も忠実なファンさえも怒らせているのだ。 【動画】ダカールラリー2024:ステージ12ハイライト アウディはスポーツカーやツーリングカーレースで絶大な成功を収めてきただけに、アウディ陣営のチームやドライバーでさえも、こうした決定がアウディのブランドやイメージを傷つけたと考えている。 F1は今、空前の人気を誇っているかもしれないが、アウディはシングルシーターのレースとは無縁だった。1930年代にアウト・ウニオンとして戦っていた一時期を除いて、アウディはグランプリに参戦したことがないのだ。そのため、F1プロジェクトに総力を挙げるという決定は、外部から見て不可解なものだったのだ。 F1で成功するのは簡単なことではない。トヨタやホンダ、BMW、ジャガーなどがF1に挑戦しながら、プロフェッショナルで巧みなレースチームを凌駕するのは企業構造上不可能だと悟ってF1を去った中、2026年に新メーカーとしてF1に参戦するアウディもグリッド中団で足踏みをすることになるのではないかと懐疑的な見方がされているわけだ。 アウディのような大企業がテンポの速いF1の世界に適応できるかどうかを疑問視するのは当然だが、ダカールラリーのプログラムを立て直した方法を考えると、F1でもレッドブルやメルセデス、フェラーリの3強に対抗できるかもしれない。 アウディが最後に残ったファクトリー活動であるラリーレイドを2024年限りで終了する予定であることは公然の秘密だった。もし今回のダカールで勝てなければ、アウディは2022年からの3年間の挑戦を手ぶらで終える事になっていたのだ。 それを避けるためにも、アウディは全力を尽くしてきた。ライバルたち(特にプロドライブのナッサー・アル-アティヤ)はアウディを過小評価したツケを払うことになった。 2022年のダカール初参戦は、ほぼ成功だと考えられていた。フォーミュラEやDTMで培った技術を駆使して作られた電動マシンのRS Q e-tronでマティアス・エクストロームが9位に入賞したことは、コンセプトの証明であり、従来の燃料を搭載した同クラスのマシンと競争することが可能であることを示した。 しかし2023年の挑戦は大失敗に終わった。大きな飛躍を遂げるどころか、パフォーマンスと信頼性の両面で後退。サインツSr.とステファン・ペテランセルはともにリタイアを余儀なくされ、唯一生き残ったエクストロームが14位でフィニッシュするのがやっとだった。 望んでいたような結果が出せなかったことを受けて、エンジニアたちは製図台に戻り、マシンを大きく作り直した。シャシーやトランスミッション、ボディワーク、パワートレインやそれを管理するソフトウェアに至るまで、事実上ほとんどのコンポーネントを見直した。 大幅な軽量化が図られ、広大な砂漠でどんな衝撃にも耐えられるよう、より頑丈なマシンとなった。もし故障しても、メンテナンス時間が短縮できるようにも配慮されていたという。 それでもアウディは本命視されていなかった。アル-アティヤをセバスチャン・ローブのパートナーに起用したプロドライブがダカールの新たな王者になると予想されていた。 しかし最初の一週間でライバルたちが続々脱落する中、サインツSr.は印象的なパフォーマンスを発揮。ラリー後半に入る頃には、アウディの3台は一丸となって総合優勝を目指した。エクストロームがサインツSr.のために道を切り開き、ペテランセルがサインツSr.の後方から追走。パンクやトラブル発生時にすぐに駆けつけられるように備えた。 一方で複数の独立チームからなるプロドライブは団結力に欠けていた。アル-アティヤは、信頼性の問題に見舞われるとラリーから離脱。皮肉なことに、ラリー前にアウディは3日で「家に帰る」と主張していたアル-アティヤが一足早くラリーを終えることになったのだ。 そしてサポート役を失ったローブはサインツSr.に追いつくために全力を尽くしたものの、サスペンションにダメージを負うと1時間以上足止めをくらい、万事休す。サインツSr.がアウディに初めてのダカール制覇をもたらした。 ダカールラリーが終わり、アウディは再びF1に集中できるようになった。ザウバーとの提携による新プロジェクトに多くのリソースが割かれており、現在のザウバーはアウディのワークスチームへと姿を変え、従業員数をトップチーム並みにするために主要スタッフの人材雇用を進めている。 また新しいエンジンプログラムを一から立ち上げるため、アウディはノイベルクのコンピテンスセンター・モータースポーツ内に新しい施設を建設している。 1993年からF1を戦い、その裏も表も理解しているザウバーというパートナーと、シャシーとエアロに取り組むための最新設備をすべて備えたファクトリーを整えているアウディ。ザウバーがかつてBMWと組んでいたときの経験も、アウディにとって役立つものだと言える。 とはいえ、ザウバーのテクニカルディレクターであるジェームス・キーでさえ、チームの”最終形”が完成するのは2027年になると認めている。だがもしアウディが2026年の開幕戦から競争力を発揮できなかったとしても、結論を出す必要はない。 ダカールラリーで成し遂げたように、これまでで最も野心的なF1プロジェクトにおいてもいずれ道を見つけるだろう。そんな未来を予感させるほど見事な戦いぶりを、アウディは今年のダカールラリーで見せたと言えるのではないだろうか。
Rachit Thukral