あぶなかった…年金月20万円、定年後も働く64歳男性が「年金繰下げ受給」を“選ばなかった”ワケ【CFPの助言】
「繰下げ受給」を決断する前に確認したい4つのポイント
筆者はA夫妻に、「繰下げ受給を決める前に確認しておくこと」として次の4つ※を挙げました。 1. 繰下げ期間中(=年金受給前)の支出(生活費など)を、貯蓄や他の収入などで確保できるようにしておくこと。 2. 「特別支給の老齢厚生年金」については、繰下げ受給できない。受給できる年齢になったら別途申請し、受給すること。 3. Aさんが仮に75歳まで繰下げて年金を受給する計画で、不幸にも71歳で亡くなった場合、Bさんの請求に基づきAさんが65歳時点の年金額(増額されていない本来の金額)が一括して「未支給年金」として支払われること。また、請求した時点から5年以上前の年金は時効により受け取れないこと。 4. Bさんが遺族厚生年金を受給する場合、受給額はAさんの65歳の老齢厚生年金の受給額で計算されるため、Aさんが繰下げ受給した分をBさんの受給額に反映することはできないこと。 ※ その他、在職老齢年金制度により支給停止される額、障害年金との調整などの詳細は、日本年金機構の「年金の繰下げ受給」を参照のこと。
【シミュレーション】A夫妻が「繰下げ受給」を利用したら…
次に筆者は、Aさんが年金の繰下げ受給を行った場合のシミュレーションをしてみました。 Aさんは60歳で某企業を定年退職後、現在は元上司の個人事務所で働いています。このまま、70歳までバイトとして勤務する予定です。年収は約100万円。貯蓄が約1,000万円。A家の支出は毎月約25万円です。 ※1 特別支給の老齢厚生年金(Bさんは結婚するまでは会社員だった)。 ※2 加給年金(39万7,500円)を含む。 ※3 振替加算(1万5,323円)を含む。 Aさんが通常どおり65歳から年金を受給する場合と、受給開始を5年繰下げて(遅らせて)70歳から受給する場合と、10年繰下げて75歳から受給する場合それぞれについてシミュレーションを行いました。結果は下記のとおりです。 まず、Aさんは、60歳の退職後はバイト収入だけで、退職金や貯蓄を取り崩して生活していました。しかし65歳から年金受給が始まれば、家計収支は年間30万円くらいの赤字に収まり100歳くらいまで貯蓄を残す生活が可能です。 しかし70歳まで繰下げ受給をしても[図表2]のように、65歳からの総受給額を上回る年齢は84歳です。現在64歳のAさんの平均余命は20.25年で約85歳※ですので、繰下げる効果は限定的です。 ※ 厚生労働省「令和4年簡易生命表」より。 また、70歳まで確実にバイト収入があっても年金収入がなければ、この5年間で貯蓄が目に見えて減ります。 したがって、Aさんの場合は繰下げ受給の効果は期待できないことがわかりました。 ◆まとめ…繰下げ受給には「準備」がいる 筆者がここまで話をすると、Aさんは「むやみに年金の繰下げ受給をしてもいいわけじゃないんですね! あぶなかった……決断する前に相談してよかったです」と安堵されました。 繰下げ受給をする前には、実際にどのくらい手取りが増えるのか調べたり、繰下げる期間の生活費の準備などが必要です。 したがって、「もらえるお金が増えるから」と安易に決断する前に、自分にとってのメリット・デメリットを慎重に見極めることが重要です。ご自分だけで判断が難しい場合は、専門家に相談してみるといいでしょう。 牧野 寿和 牧野FP事務所合同会社 代表社員
牧野 寿和