あぶなかった…年金月20万円、定年後も働く64歳男性が「年金繰下げ受給」を“選ばなかった”ワケ【CFPの助言】
年金が最大84%増額!「繰下げ受給」のメリット
「年金繰下げ受給」とは、年金を65歳から受給しないで、66歳以降75歳0ヵ月※までのいずれかのタイミングまで受給を繰下げる(=遅らせる)ことで、その分増額した年金が受給できる制度です。 ※ 昭和27年4月1日以前生まれの方は、繰下げの上限年齢が70歳まで。また平成29年3月31日以前に老齢基礎(厚生)年金を受け取る権利が発生している方は権利が発生してから5年後まで繰下げることができる。 1ヵ月ごとに繰下げることができ、1ヵ月あたり0.7%、年8.4%増額されます。最大75歳0ヵ月まで繰下げると、最大84.0%増額され、その金額の年金を生涯受給することができます。 なお、老齢基礎年金と老齢厚生年金は別々に繰下げ受給ができます。
「繰下げ受給=必ずお金が増える」わけではない
ただし、年金繰下げ受給には次のようなデメリットがあるため注意が必要です。 1. 税金や社会保険料の負担が増える 前年の所得によって納付額が決まる所得税や住民税、また国民健康保険料、介護保険料といった社会保険料は、繰下げ受給して年金が増額すれば、その分納付額が増えることがあります。 たとえば、65歳以上で公的年金以外の収入がない方は、所得税は年金収入が158万円以下なら非課税※1です。住民税も同様におおよそ155万円以下※2であれば非課税です。それ以上の年金受給額になれば課税の対象になります。 ※1 たとえば、年金を158万円((1))受給すると、「公的年金等に係る雑所得」の控除では110万円以下はその額が控除できるので0円((2))。また基礎控除は48万円((3))。したがって158万円((1))-110万円((2))-48万円((3))=0円。非課税となる。 ※2 金額は自治体ごとに定められているため、各自確認が必要。また、住民税の基礎控除額は43万円。 また、国民健康保険、介護保険の保険料や、病院での診察や介護を受ける際の自己負担割合も所得によって決まるため、こうした負担額も増える可能性があります。 したがって、繰下げ受給をするとたしかに年金の受給額は増えますが、手取り額も同様に増えるとは限りません。 2. 加給年金や振替加算が受け取れなくなる 「加給年金」とは、Aさんのように厚生年金加入期間が20年以上の老齢厚生年金受給者にBさんのような配偶者(65歳未満)や子ども(18歳未満)がいる場合に支給される年金のことです。これはAさんの「老齢厚生年金」に加算されます※。 ただし、Bさんが65歳になり自分の年金を受給するタイミングで停止になります。 ※ 配偶者の加算額は39万7,500円(令和5年度の額)。 また、「振替加算」は、昭和61年(1986)4月1日の時点で20歳以上の方が対象です。上記の加給年金受給者の配偶者(Bさん)が65歳になると、配偶者の「老齢基礎年金」に生涯加算※されます。 ※ 加算額は、配偶者が昭和36年4月2日から昭和41年4月1日生まれは1万5,323円(令和5年度の額)。生年月日により受給額は違う。 加給年金は繰り下げて受給はできないので、もしAさんが老齢厚生年金の受給を繰下げて、その期間中に、配偶者のBさんが65歳になったら、Aさんは加給年金の受給資格を失うことになります。 また、Aさんが66歳から老齢厚生年金と加給年金の受給申請をした場合、老齢厚生年金は繰下げた1年分増額されますが、加給年金は増額されません。 加給年金も受給したいのであれば、「老齢厚生年金」は本来の65歳から受給し、「老齢基礎年金」だけ繰下げ受給するのも一案です。 一方、振替加算も、Bさんが「老齢基礎年金」を繰下げ受給する場合、受給開始までの期間振替加算はできません。その後、受給開始となっても、増額は「老齢基礎年金」にのみ適用され、振替加算分は増額されません。 なお、加給年金、振替加算とも、原則配偶者(Bさん)が20年以上厚生年金に加入していると受給の対象外となります。