「命令に従った」は通用しない 問われる個人としての戦犯~28歳の青年はなぜ戦争犯罪人となったのか【連載:あるBC級戦犯の遺書】#44
命令されたら、やらざるを得なかった
炭床静男兵曹長の次男・健二さんと三男・さんは、裁判記録から父が事件に関わった当時の状況を知って、次のように感想を述べた。 次男・健二さん「そのときに私も同じ状態になったら、命令されたら仕方ないですよね、ひとりだけ独特な行動をして逃げるわけにいかないでしょう。逃げたら卑怯者というふうになるわけですから、おやじの気持ちもわかりますよ。戦争という大きな国の中で動いているわけだから、命令されたらやらざるを得ないというのが本音じゃないですかね。それが戦争という状況でしょうからね」 三男・浩さん「父が酔っ払った時に、上官の命令は絶対だという時代があったんだというようなことを、時々言っていました。いま思えば、事件のことも含めてそう言っていたんだと思いますが、その当時は子供だったから、意味は分からなかった」 静男にしてみれば、軍人として命令を忠実に守ったということだったのだろう。元警察官の健二さんは、 次男・健二さん「だからわかりますよ、おやじのやったことは理解できる。今はやっちゃいけないことですけど、当時としてはやるでしょうね、やっぱり。私も命令されたら逃げられんですから」 〈写真:炭床静男の次男・健二さんと三男・浩さん〉
今も戦争犯罪は起きている
石垣島事件は過去の戦争犯罪だが、いまも地球上では戦争犯罪が絶えない。日本の戦犯裁判は現在、どのような影響を及ぼしているのか。日本大学生産工学部の高澤弘明准教授に解説してもらった。 高澤准教授「例えばウクライナで今、ロシアがやっていること、ウクライナもやっているかもしれませんが、捕虜の扱いだとか、あるいは一般市民を巻き込んでの戦闘は、戦争犯罪になります。日本の場合は、幸いにしてこの80年間、戦争がなかったので忘れられていますが、戦争犯罪は今も発生しています。そして、今の戦争犯罪の考え方の源流は、第二次世界大戦後のドイツと日本の戦犯裁判が大きく影響しています」 〈写真:髙澤弘明准教授〉