パンフレット売り場ではもうひとつ“関門”があります【みうらじゅんの映画チラシ放談】『HOW TO HAVE SEX』『帰って来たドラゴン《2Kリマスター完全版》』
『帰って来たドラゴン《2Kリマスター完全版》』
――2枚目のチラシは、1974年の香港カンフー映画のリバイバル、『帰って来たドラゴン《2Kリマスター完全版》』です。 みうら 当時、映画館で観た香港映画は基本、画質がボソボソでしたからねぇ。どのぐらいキレイになってるのかが知りたいところです。 かつて黒澤明監督の『七人の侍』の“修復版”ってやつを観に行ったことがあるんですが、こちらは音声がボソボソでねぇ、何を喋ってんのかさっぱり聴き取れなかったシーンもありました。今回の『帰って来たドラゴン』はこのチラシ自体ずいぶんクリアになってる気がするんですけど、どうでしょう? ――チラシも2Kになっているってことですか? みうら せっかく帰って来たんですから、せめて2Kになってるんじゃないですか(笑)? ――この映画の主演はブルース・リーじゃない別のドラゴンさんですよね? みうら ドラゴンと言っても何匹もいた時代です。この方はブルース・リャンさんですね。ブルース・リだとか、ブルース・リィとか笑いを取ろうとしてんじゃないかと思うドラゴンはたくさんいました。そんな中、ブルース・リャンはちゃんとしたドラゴンでしたよ。 ――「ちゃんとしたドラゴン」ってくくりがあるんですね(笑)。 みうら ありますねぇ(笑)。それほどブルース・リーブームはすごかったということです。 倉田さんも本当のドラゴンでした。当時、敵役であれ日本人が大活躍されているところを観るのは嬉しかった。 ――チラシには「香港カンフー映画、伝説の最高傑作」とまで書いてますね。 みうら 『帰って来たドラゴン』は数あるドラゴンものの中で名作だと思いますねぇ。でもね、倉田さんはこの映画ではブラック・ジャガーなんですけどね。 ――チラシにも当然のように「ブラック・ジャガー」って書かれてますけど。 みうら ドラゴン以外にもジャガーがいましてね。当時、観に行った映画でも『吼えろ!ドラゴン 起て!ジャガー』って邦題の映画もあったくらいです。 ま、感覚としては、「ゴジラ対キングコング』みたいな。つまりどっちも強さは互角であるっていう意味だと捉えていいんじゃないですかね。 ジミー・ウォングさんはドラゴンでも片腕ドラゴンで有名ですし、後に座頭市にも登場されます。 ――ジミー・ウォングが片腕剣士として登場する『新座頭市・破れ!唐人剣』ですね。 みうら それです。かつての日本のチャンバラ映画が、ドラゴンにも大きな影響を及ぼしてるわけです。倉田さんがドラゴンとして香港でもものすごくリスペクトされてたってことです。いや、この場合、ジャガーですがね(笑)。 ――ジャガーですが(笑)。チラシの裏面を見ても、完全にブルース・リャンより倉田さんが目立ってますね。 みうら でしょ。昔は今みたいに情報がなかなか入ってこなかったから、倉田さんの香港での活躍は一部のカンフー映画ファンじゃないと知りませんでした。『Gメン’75』でようやく知った方も多かったと思いますね。 同時上映が倉田さんの短編映画『夢物語』ですか。これはジャガー祭りというか倉田さん祭りですね! ――これはブルース・リーの映画ではないですけど、ブルース・リーのコレクターでみうらさんの美大時代のお友だち、トット・リーさんは観に来られるんですかね? みうら 先日、前売り券を買ったと電話がありました(笑)。 その時、「じゅんちゃんに一応言うとくけど、ジャッキー・チェンの『ライド・オン』は、50周年記念作やねん。これだけは観てえな」って頼まれたもので観に行ったんですよ。 スタントマンの哀愁にボロ泣きしました。やっぱりカンフーものはいいですね。『帰って来たドラゴン』は、そんなキープオン・ファンのために帰って来てくれたんです。トット・リーはそれだけでも泣いていると思いますよ(笑)。 取材・文:村山章 (C)BALLOONHEAVEN, CHANNEL FOUR TELEVISION CORPORATION, THE BRITISH FILM INSTITUTE 2023 (C)1974 SEASONAL FILM CORPORATION All Rights Reserved. ■みうらじゅんプロフィール 1958年生まれ。1980年に漫画家としてデビュー。イラストレーター、小説家、エッセイスト、ミュージシャン、仏像愛好家など様々な顔を持ち、“マイブーム”“ゆるキャラ”の名づけ親としても知られる。『マイ修行映画』(文藝春秋)、『みうらじゅんのゆるゆる映画劇場』『「ない仕事」の作り方』(ともに文春文庫)など著作も多数。 『HOW TO HAVE SEX』 上映中 『帰って来たドラゴン《2Kリマスター完全版》』 上映中