パンフレット売り場ではもうひとつ“関門”があります【みうらじゅんの映画チラシ放談】『HOW TO HAVE SEX』『帰って来たドラゴン《2Kリマスター完全版》』
みうらじゅんさんの前に近々公開される映画のチラシを大量にお持ちして、グッとくるチラシを厳正にピックアップ。映画本編は観ていないので事前知識はほぼゼロ、頼りになるのはチラシ内の情報(と妄想)だけという状態で語っていただく、言いっぱなしの映画チラシ放談です。(ぴあアプリ「みうらじゅんの映画チラシ放談」より転載) 【全ての画像】『HOW TO HAVE SEX』『帰って来たドラゴン《2Kリマスター完全版》』
『HOW TO HAVE SEX』
――今回の1枚目のチラシは、無軌道なパリピの若者たちを描いた青春映画『HOW TO HAVE SEX』です。 みうら かつて『セックス・アンド・ザ・シティ』って映画あったじゃないすか。公開当時観に行ったもんですよ。 ――映画版を、ですか? みうら はい。逆に映画版しか知りませんでしたから。そのときはまだ、チケット売り場で買ったもんです。 ――売り子の人にタイトル言わないといけないやつですね。 みうら まずそこを試してくるわけです、映画館はね。その試練を乗り越えた者だけが映画を観られるというシステムでした。自動発券機が当時既にあったのかもしれませんけど、まあ試練を数々、乗り越えてきた身としてはチケット売り場じゃなきゃいけないと思ってね。 そうしたら、その売り場のガラス窓のところに注意書きがあったんです。『セックス・アンド・ザ・シティ』を「SATC」と呼んでくださいって。 ――よく「SATC」って略されてますね。 みうら 「SATCと呼んでください」って突然言われてもねぇ(笑)。僕の前に並んでた人が「SAナントカ」ってしどろもどろに言ったら、チケットを売ってる女の人がインカムマイクを付けていてね、「『セックス・アンド・ザ・シティ』ですね」って大きな声で言ったんです。 ――ひどい! それはひどい!(笑) みうら でしょ? SATCにした意味ないじゃないですか! それで自分の番が来るのが怖くなってねぇ(笑)。 僕、そこまでして『セックス・アンド・ザ・シティ』が観たかったわけじゃないんです。もうしょうがないから、ここは堂々と「セックス1枚!」って言いました。 そうしたら「ハイ」って素直に売ってくれたんです。それでまずはホッとしたんですけど、僕、パンフレットを買うのも義務でしてね。当然、もうひとつ関門があったんです。 前から提唱しているアイデアなんですがね、大きな映画館ではいろんな映画を上映してるわけですから、パンフレット売り場ではタイトルじゃなくて、A、B、C、Dとか記号をつけるだけでいいんじゃないかと。「Aください」って言えば出してきてくれたら楽じゃないですか。パンフレット売り場でも「セックスのパンフください!」って言わなくてすみますからね。 たぶん、この映画も「ハウツーのパンフをー」と言っても、店員さんはやっぱり「『HOW TO HAVE SEX』ですね」ってフルで言うでしょうね。でもこんな関門をくぐり抜けて手にしたパンフレットって、僕にとっては何よりも値打ちあるんですけどね。 ――それもみうらさんがよくおっしゃる“修行”の一環なんですね。 みうら 映画には修行が付きものですから(笑)。それに今回のハウツーですが、僕らの世代には、奈良林祥さんの著作『HOW TO SEX』ってベストセラー本がすぐに浮かんできます。 たぶんこの映画を観に来る昭和生まれのオッサンたちは、間違えて「HOW TO SEX」って言うに決まってるんです。「HAVE」なんて絶対に目に入らないと思います。だったらいっそのこと邦題は『HOW TO SEX』でいいじゃないすかねぇ。 ――頑として『HOW TO HAVE SEX』とは言わないんですか? みうら いや、ちゃんと言うためには前もって何回か練習してからパンフレット売り場に行かないとムリですね。「ハウ・ツー・ハブ・セックス」ってちゃんと点で切って発音して、パンフレットくださいって言ったとしても、自信がないと小声になりがちなんで、当然「はい?」って聞き返されますよね。練習が台無しです。 昭和の人たちがこの映画をすんなり観られるように考えてもらいたいです。「H・T・H・S」はもう、ダメですからね(笑)。