東京23区で唯一、練馬区が児童相談所の設置を表明しない理由
昨年3月に東京都目黒区で起きた女児虐待死事件は、社会に大きな衝撃を与えました。痛ましい記憶も冷めやらない今年1月には、千葉県野田市で女児虐待死が起きています。児童虐待事件が大々的に報道される中、政府や地方自治体も子どもを守る対策の強化に乗り出しています。行政が子供を守る機関として、私たちが真っ先に思い浮かべるのは児童相談所(児相)でしょう。しかし、東京の練馬区は23の特別区の中で唯一、児相設置の方針を表明していません。それはなぜなのでしょうか。
児相開設で虐待が即解決できるわけではない
以前の法律では、47都道府県と政令指定都市は必ず児相を設置しなければならないと定められていました。2006年には児童福祉法が改正され、中核市でも児相を設置できる規定が盛り込まれました。しかし、都道府県と政令指定都市が「必置」であるのに対し、中核市は「設置できる」という位置づけにとどまりました。そのため、現在において児相を設置している中核市は石川県金沢市と神奈川県横須賀市の2市だけです。今年4月1日から兵庫県明石市が新たに児相を設置しますが、児童福祉法改正から10年以上が経過しても中核市の児相設置は合わせてわずかに3市という状況です。 一方、人口の多い首都・東京の23特別区は、2006年の法改正で児相設置の権限が与えられませんでした。しかし、児童虐待の対応件数は全国で年間10万人を上回り、きめ細やかな体制・機動的な対応が求められています。そうした社会状況に応じ、2016年に児童福祉法が再び改正されます。これにより、東京23区でも児相が設置できるようになりました。 法改正を受け、荒川区、江戸川区、世田谷区の3区は2020年を目標に児相開設の準備を急ピッチで進めています。残る20区のうち、19区も児相開設を表明しました。 競うように児相を開設する23区において、唯一、児相の開設を表明していないのが練馬区です。 「児相の開設を表明していないからといって、練馬区が子どものことを考えていないわけではありません。児相設置によって、児童虐待の問題が即時に解決するわけではありません。練馬区は児童虐待を含む子育て支援を重要な課題と捉え、もっと地に足の着いた方法で問題解決にあたろうと考えているのです」と話すのは、練馬区教育委員会事務局こども家庭部練馬子ども家庭支援センターの宮原恵子所長です。