東京23区で唯一、練馬区が児童相談所の設置を表明しない理由
件数は倍増しても児相職員は増員されていない
都内における虐待通告総数は、2013年度が約1万4000件。2017年度は約2万700件と、わずか4年でほぼ倍増しました。 虐待通告とは、虐待を受けたと思われる児童を発見した人が、児相に連絡した件数のことです。通告総数が4年で倍増したことは、児童虐待への関心が社会全体で高まっていることを示唆しているといえるでしょう。 その数字だけでは見えない部分もあります。通告件数は倍増しましたが、実際に一時保護された児童数は2013年度が約970件で、2017年度は約1200件。通告件数の伸びに比べればそれほど増えていないのです。 その間、児相の職員は増員されていません。通告総数が急増する中、職員は通告の対応に追われてしまい、一つひとつの案件に向き合えないほど忙殺されています。 こうした事態を受けて、政府や地方自治体から児相職員を増員するべきだといった声も出ていますが、児相職員には専門知識が不可欠で、加えて現場経験も重要です。簡単には養成できず、すぐ増員というわけにはいかないのです。児相が必置とされる都道府県や政令指定都市でも、児相の職員は不足気味で新たな養成も困難を極めています。 「そうした現状を踏まえ、練馬区は法的対応も含めて『介入』は児相、『寄り添い支援』は子ども家庭支援センターと役割分担を明確化しました。役割分担が曖昧のままでは、『虐待通告があったら、すぐに児相』という具合に丸投げしてしまいがちになり、人手不足の児相は対応が疎かになってしまう可能性があります。子ども支援センターは、学校・民生委員・警察・医療機関・NPOなどと連携した要保護児童対策地域協議会を組織しています。そうした組織で初期対応にあたり、緊急性が高かったり、重篤だったりと判断した場合に児相に連絡を入れて動いてもらう仕組みを築いています」(同)
虐待した親が簡単に居場所を特定できる恐れ
また、「練馬区が児相設置を考えないのは、23区独特の事情もある」と宮原所長はいいます。通常、保護された子どもは児童養護施設で生活を送ることになります。区ごとに児相を設置すれば、養護施設も区内に開設されます。その場合、虐待していた親が簡単に子どもの居場所を特定できるのです。 学校への登校・下校途中時などに、容易に接触でき、連れ戻すことができてしまうのです。そういったケースを考慮し、練馬区は広域行政体である都道府県が児相を所管することが望ましいと考えているのです。 「とはいえ、東京23区には一時保護所のある児童相談センターを含め児相が7つしかありません。練馬区から一番近いのは新宿区で、物理的な距離が離れています。そのため、区民が『児童虐待があった場合に不安だ』と心配することも理解できます。区民の不安を解消するために、練馬区は子ども家庭支援センター内に都の児相機能・職員を置くといった新しい体制の構築を進めています」(同) 児相を開設する。役割分担を明確化して、連携を強化する――自治体ごとに方法論は異なっていても、子どもを守るという思いは同じです。行政のみならず、地域住民・警察・NPOなどは常に最善の対策を求めて動いています。 (小川裕夫=フリーランスライター)