シリア・アサド政権も「イスラム国」も非人道性では同じ? 国際政治学者・六辻彰二
「イスラム国」台頭後のアサド政権
内戦が激化したシリアでは、欧米諸国が支持する世俗的反体制派の連合体「自由シリア軍」(FSA)と、アル・カイダ系の「アル・ヌスラ戦線」がアサド政権へ攻勢を強めました。そこに隣国イラクから流入したのが「イラク・レバントのイスラム国」(ISIL)でした。ISILは2013年末にシリア東部を、2014年6月にイラク北西部を制圧し、IS建国を宣言。これに対して、2014年9月から有志連合によるシリア領内での空爆が開始。それまで欧米諸国と敵対してきたアサド政権は、これを事実上黙認し、自らも空爆を含む攻撃を行っています。
しかし、その一方で、アサド政権は全面的にISと対立しているともいえません。ISの拠点の多くは有志連合が空爆していることもあり、少なくとも結果的に、アサド政権による空爆の対象はFSAなどが中心です。さらに、シリア政府は東部の油田で産出される石油をISから購入しており、この地域で使用されている携帯電話サービスはシリア企業によって現在も運用されています。 その上、ロンドンを拠点とするシリア人権監視団によると、アサド政権は燃料を詰めた樽を爆発させる「樽爆弾」(殺傷能力が高すぎるので国連で禁止されている)を空爆で使用しており、それによって2月初めの5日間で、92人のISを含むイスラム過激派とともに185人の民間人も殺害されるなど、人道的に多くの問題が指摘されています。
アサド政権と欧米諸国の関係は
それでもIS台頭をきっかけに、欧米諸国にはアサド政権との関係を見直す動きが出ています。2月15日、ド・ミストラ国連シリア特使は「アサド政権を危機の解決策の一環とすべき」と発言。さらに2月25日、フランスの与野党議員4人がシリアを訪問し、アサド大統領と面談しました。 ISの制圧が空爆だけでは難しい一方、欧米諸国は国内の厭戦ムードもあって、地上部隊の派遣に消極的。そのため、現地との協力が欠かせません。2月19日に米国とトルコはIS対策として、3月からトルコ国内の基地でFSA戦闘員の訓練を開始すると発表。しかし、アサド政権は自身が同意していない部隊の流入を「違法」と主張しています。こういった背景のもと、欧米諸国からも、アサド政権をIS包囲網に組み込むべきという声があがっているのです。 各国の警戒がISに集中するほど、アサド政権にとっては「シリアの正統な政府」としての立場を強調する上で有利になります。その観点からみれば、アサド政権がFSAなどIS以外の勢力の掃討に力を入れていることは、不思議ではありません。ただし、米国が訓練したFSAをアサド政権が攻撃した場合、どのように反応するかについて、米国政府は明らかにしていません。ISを取り巻く国際政治は、さらに複雑さを増しているといえるでしょう。