消滅可能性自治体の逆いく流山市 少子高齢化を脱した秘密は市長のマーケティング戦略
――二つの危機とは? 一つが少子高齢化です。私が21年前に市長になった時、流山ではすでに少子高齢化が進んでいっていました。流山をはじめとする東京周辺の都市は、高度経済成長期に地方から上京してきた団塊世代の人たちが家庭を持ち、移り住んだ地域なんです。 これらの大都市圏の郊外は、団塊世代の比率が全国平均よりも高く、少子高齢化が日本全体よりも少し早く訪れ、一気に進みます。これが流山市の置かれた状況でした。 これをなんとかしないと財政悪化が進み、市民サービスの維持ができなくなってしまいます。 二つ目が、TX沿線の大規模土地区画整理事業でした。宅地を造成し、販売する計画ですが、TX沿線11市区の中で流山市の知名度は最低グループにあり、家を建てる場所の選択肢に入らない可能性が高い。すると区画整理された土地を売れない、または造成費用分を回収することができず、その結果、市の財政危機を招きかねない状況にありました。
――そうした課題に対し、何から取り組んだのですか? まずは知名度と地域イメージを上げる必要がありました。そこでマーケティング課を新設し、民間人のマーケターを採用し、マーケティング戦略を立案しました。その際、「SWOT分析」を行い、流山市として何を目指し、どのようなまちとして売り込むかを考えました。そして流山市の都市イメージを「都心から一番近い森のまち」とすると同時に、メインターゲットを「共働きの子育て世代」に定めたのです。 このマーケティング戦略に基づき、仕事をしながら子育てができるまちづくりを進めてきました。代表的な施策として、待機児童ゼロの保育環境と、駅前送迎保育ステーションの開設です。 この15年間に保育園数を17園から104園まで増設。保育定員数を1789人から8669人まで整備しました。ただ、2023年度まで待機児童数はゼロになりませんでした。理由は子育て世代が増え、合計特殊出生率が平成16年は1.14であったのが平成30年には1.67と4割以上増えたからです。 また保護者の方と話をする中で、「朝晩の送迎が大変だからどうにかならないか」という相談を受けて実現したのが駅前送迎保育ステーションです。 市内で複数路線が乗り入れる二つの駅前に、駅前送迎保育ステーションを設置。利用者は通勤途中で駅前送迎保育ステーションに預けると、市内の小規模の保育事業所と園であっても、市内2カ所の送迎保育ステーション近辺の保育園を除くすべての認可保育園がバスで結ばれていて、事業者がバスでそれぞれの園まで登園・降園するシステムです。 流山市は現金給付や無料化の補助、助成についても他の自治体と同程度に行っていますが、市が注力してきたのは、仕事をしながら子育てできるインフラ整備です。子育て世帯がキャリアと子育てを両立できるように、整備しています。