野坂実・一色洋平インタビュー ノサカラボが作る舞台『ゼロ時間へ』の魅力とは
原作を知っている人も知らない人も楽しめる仕掛けがある作品
――『ゼロ時間へ』という舞台の魅力はどういったところになるでしょうか。 野坂 大体の物語は事件が起きたあとがドラマとして展開するんですけど、『ゼロ時間へ』はその前からいろんなことが起きていて、最終的に殺人が起きる地点がゼロ時間となるんです。つまり、「事件が起きる前」をドラマにしているんです。なので『ゼロ時間へ』というタイトルの時点でもうほかのミステリとは毛並みが違ってきます。それはやっぱりクリスティーがよくぞ考えましたね、というところですね。 加えて、小説版の『ゼロ時間へ』はクリスティーの中ではメジャーな部類に入るんですけど、舞台版はまた違うんですよ。「あのキャラクターがなんでここに?」とか「どうしてこのタイミングで……」ということが出てくるので、原作を知っている方はびっくりすると思います。 ――観に来られた方がみなさん新鮮に楽しめるんですね。 野坂 これはクリスティーがちょっと特殊なんです。クリスティーは小説家でもあり、戯曲家でもあります。『そして誰もいなくなった』も小説版と舞台版では犯人がちょっと違っているんです。小説を読んでいる人が観に来るのを前提としているんだろう、と思います。そして、何も知らない人が観ても成立させられるように、クリスティーが狙っていることなんでしょうね。知っているとよりおもしろいし、知らなくてもミステリーとして滅多にお目にかかれない構造なのでおもしろいと思います。 一色 「ゼロ時間」という言葉の意味を1幕の中盤ぐらいに説明するシーンがあるんです。お客様が「ゼロ時間ってここのことなのかな」とお思いになる時間と、確実にずれる仕組みになっていて、それがわかった瞬間に僕、舞台上いながら毎回鳥肌立つんですよ。 それを全員にお伝えするとある役者さんが抜群にうまいから、というのもあるんですけど。毎回見事に鳥肌立つので、僕の鳥肌をちょっとオペラグラスで見てもらって(笑)。 野坂 いや、あのシーンはかっこいいよね。 一色 かっこいい!見事だと思います。 それに、アガサ・クリスティーがゼロ時間っていう言葉の意味を、作品としてそういう使い方をしたところに鳥肌は立ちます。 ――最後に、いま舞台を楽しみにされている方、観に行こうか悩んでいる方にメッセージをお願いします。 野坂 観に来てくださった方が、観たときに「来てよかったな」とか「なんだろう、この高級感」だとか、そういうふうに思ってもらえるといいな、と思って作り上げています。僕がどうしてもいいものを作らないと楽しくないんですよね。だからスタッフさんや、俳優さんに求めるものは多いですし、キャスティングした段階で、それぞれこの俳優さんはこの人じゃないと成り立たない、という人にお願いしているんです。 観に来てほしい、だけではなくて、観に来た方が損しないと思えるような人たちと一緒にやれているのが楽しいので、お客様にもそうやって楽しんでほしいですね。 あと、ミステリーって思いのほか難しくないんです。難しいものだというイメージがありますが、それをどれだけ難しくならないように作るかが僕らの技量でもあります。ミステリーを解くぞ、という人たちを対象に作るのではなくて、ミステリーを見慣れていない人たちを対象に作り上げていくイメージです。そうするとみなさんハマってくれるので、そこがひとつのポイントになっているのかな。 気張らず、楽しく、ちょっと高めのコーヒーを楽しみに来たような、そんな感覚で、ぜひぜひ遊びに来てください。 一色 小説を読んできてくださっても楽しいでしょうし、全く読まなくても楽しいでしょうし、とにかくみなさんを置いていかないように交通整理は野坂さんがしてくださっています。難しいものを優しくしてくださってるので、安心して劇場に来ていただければ。 あと、三越劇場はすごく雰囲気があって、モダンな劇場なので、トレシリアン邸に呼ばれたひとりだと思って遊びに来ていただければ、と思っています。 取材・文:ふくだりょうこ <公演情報> ノサカラボ『ゼロ時間へ』 東京公演:2024年10月3日(木)~9日(水) 三越劇場 大阪公演:2024年10月13日(日)・14日(月・祝) COOL JAPAN PARK OSAKA TTホール