野坂実・一色洋平インタビュー ノサカラボが作る舞台『ゼロ時間へ』の魅力とは
10月3日に東京・三越劇場にて幕が上がるノサカラボ『ゼロ時間へ』。原作はアガサ・クリスティーが1944年に発表した長編小説。演出を野坂実、翻訳を小田島恒志と小田島則子が務める。 イギリスの田舎にあるトレシリアン邸に家族や友人たち、親しい人々が集まった9月のある日。集まった人間の中には複雑な人間関係もあるようで……そんな中、邸の主であるレディー・トレシリアンが何者かに撲殺される。 いったい犯人は誰なのか、動機はなんなのか……。 今回、演出の野坂とトマス・ロイド役を務める一色洋平さんに話を聞いた。
ノサカラボならではの『ゼロ時間へ』
――今回、『ゼロ時間へ』を演目として選ばれたのはどういった理由だったんでしょうか。 野坂実(以下、野坂) 『ゼロ時間へ』はアガサ・クリスティーの小説の中でも有名な作品なんですが、戯曲はほぼ流通していないんです。それを今回発掘して現代の翻訳家、小田島恒志さん、小田島則子さんにお願いして新しくやりましょう、ということで作りました。 なかなか流通していない作品だからこそ、観ていただける価値があるということと、クリスティーの戯曲はDVD化できないので、ご覧いただくには劇場で直接観ていただくしかありません。でも、せっかく観に来ていただくなら、メジャーだけど舞台ではほぼお目にかからない作品を、と思ったんです。 ――一色さんは作品に対する第一印象はいかがでしたか? 一色洋平(以下、一色) 大学のときに初めてアガサ・クリスティーの作品に触れたんですけど、『ゼロ時間へ』は不勉強ながらタイトル自体を今回、初めて聞いて。野坂さんの話を聞いていくうちに、「あれ、これって日本初演なんじゃない?」と思ったんですけど……。 野坂 初演ではないんですよね。でも、小田島さんの訳では初演になります。小田島さんの翻訳だと、またニュアンスだとかも全く変わってくるので、おもしろいと思いますよ。
芝居好きたちで作品を作ったら……
――キャスティングはどのような経緯で決まったんでしょう? 野坂 お友だちを呼びました(笑)。 一色 はははっ! 有志一同、みたいな(笑)。 ――まさかのご回答でびっくりしました(笑)。 野坂 お芝居が大好きなおもしろい人たちを集めています。 あとは芝居のスキルですね。ストレートプレイなので、お芝居をしなければならない部分もたくさんあります。劇中に頻繁に音楽が流れるわけでもないし、照明も変わらない。芝居だけで場を持たせられる俳優さんであることを加味しながら選びました。 ――そんな中で一色さんにオファーされた理由はどういったところなんでしょう? 野坂 一色さんとは以前にも一緒にやったことがあって、そのときにやっぱり芝居が大好きだということは知っていました。ストレートプレイで悩んだときには一色くんに頼もう、というところがありますね。 前回、お願いしたときはスケジュールが合わなかったんですけど、今回のキャラクターを見ていて一色くんがいけるんじゃないか、と。 ――野坂さんからのオファーに、一色さんはどういうお気持ちだったんですか? 一色 嬉しかったですね。ご一緒するのは8年ぶりで、1作目はうつ病を題材としたシリアスなストレートプレイ、2作目はコメディにも振れる作品だったんですけど、全く違う毛色で演出してくださった中で、野坂さんの演出の中にいるの楽しいな、と思ったんです。 また何かご縁があったらな、と思っていたところでオファーをいただいて、しかも、ずっと立ちたいと思っていた三越劇場さんだったり、実は触れてこなかったミステリー作品だったり。自分にとってはいろんなおいしいとこ取りです(笑)。 ――今回の役柄についてはどのように捉えていらっしゃいますか? 一色 自分がやったことがないタイプの役柄ではあったんですけど、野坂さんが僕に合うかもしれないと思ってくれた理由が、最初の段階で少しわかったんですよね。 トマスは不器用だったり、「正直トマス」と小説の中であだ名がつけられているようなキャラクターです。素直でいることしかできないのがコンプレックスだったり、長所に見えて短所だったり、というところは、とてもシンパシーを感じていました。 ――野坂さんはトマスと一色さんのイメージをどのように重ねていらっしゃったんですか? 野坂 ハツラツとしたスポーツマンとの対比として、影の存在でもあります。でも、一色くんそのものが陽の存在なんですよね。だから、一色くんが演技を抑えて暗くボソボソッと話すのは嫌だったんです。 ラストにかけて、普段は抑えているけれど、どこかで少し解放されたり、そういう魅力的なものを持っているとか、そういう内面的なところで決めましたね。 でも、条件はやっぱり芝居が好きかどうかです。 一色 芝居が好きなお友だち、ですね。 野坂 ここがすごく大きいんですよ。 いろんなお仕事をされている方々ですけど、全員、「舞台は舞台で最高におもろいやん」と言うようなメンバーです。そうすると、やっぱり役者さん同士の掛け合いの中で化学反応が起こるんですよね。 一色 何かおかしいと思ったところも、疑問に思ったところも大体みんな一緒なんです。でも、みんなお芝居が好きだから解決も早いんですよ。 野坂 僕は演出家なので、ある程度のクオリティに達するまでは稽古しなきゃいけない。でもそのクオリティに達して、ちょっと寝かしてもいいかな、というレベルのところにいる人たちが「もっとやろうよ」というのは、稽古場にいてなんて楽しいんだろう、と思いますよね。芝居が好きなメンバーが揃うと、こういうおもしろいことが稽古場で起きて、僕も芝居が好きだから、「じゃあ時間の限りやろうよ」となるんですよね。 一色 疑問に思って、それから解決まですると、みなさんその次もやってみてもいいですか、って野坂さんに言うこともあります。お互いに内々で「次はこうしてみようか」というチャレンジもどんどんしていくので、ワンテイク、ワンテイク、同じことが重なるんじゃなくて、必ず違うことが積み重なっていくんですよ。だから役者たちの中にも充実度があると思います。