もしトラでFRBの独立性が大きく脅かされるリスクが浮上:中央銀行の独立は人類の英知の産物
中央銀行の独立は人類の英知の産物
このようにFRBの独立性を制約する改革を議論すること自体、適切ではないだろう。現在、中央銀行の政府からの独立性が確保されている国は多いが、それは、長い歴史の中で生み出された「人類の英知の産物」とも言えるものだ。 日本でも西南戦争で、政府が戦費の調達のために通貨を大量に発行し、それがハイパーインフレを招いたことの反省を一つのきっかけにして、政府から独立した中央銀行、日本銀行が設立されたという経緯がある。 政府が金融政策に強く関与すれば、緩和的な金融政策の傾向が強まり、それが通貨価値の過度の下落、つまりインフレを通じて、国民生活を損ねてしまう恐れがある。近年では、大統領がインフレ下で中央銀行に利下げを強いたため、通貨が暴落して経済、国民生活を混乱させた、という例がトルコにある。 トランプ前大統領の側近が議論しているFRB改革案は、こうした歴史的経緯を全く無視したものだ。実際にそうした改革が実現される可能性は低いと思われるが、そうしたことが議論されるだけでも、ドルの信認に悪影響を与えるだろう。 それは、日本を含めて多くの国に現在大きな問題を生じさせているドル高を是正する効果が短期的には期待できる可能性はあるだろう。しかしより中長期的には、米国の物価安定の回復を妨げ、経済、金融市場を不安定化させる。また、中央銀行の独立性を制限するとの議論が、米国以外にも広がれば、それがもたらす世界の経済的損失は非常に大きなものとなってしまうだろう。 (参考資料) "Trump Allies Draw Up Plans to Blunt Fed's Independence(FRB独立性を弱める計画案、トランプ氏側近らが作成)", Wall Street Journal, April 26, 2024 木内登英(野村総合研究所 エグゼクティブ・エコノミスト) --- この記事は、NRIウェブサイトの【木内登英のGlobal Economy & Policy Insight】(https://www.nri.com/jp/knowledge/blog)に掲載されたものです。
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